拳銃無頼帳 不敵に笑う男

映画を鑑賞した感想記事です。


『拳銃無頼帳 不敵に笑う男』
1960年
監督:野口博志、城戸禮
出演:赤木圭一郎、笹森礼子、宍戸錠 ほか
提供:日活株式会社


金沢が舞台となり、市内や能登で実際にロケが行われた作品と知り、見てみました。

なお。Amazon Prime会員なら見放題です。

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シリーズ作のようですが、他の作品を見ていなくても問題なく楽しめました。

主人公の竜は、浜田組との激しい撃ち合いののち、2年間の服役を終えて金沢に戻ってくるところから始まります。

映し出される金沢駅は当然地上駅、もちろん北陸本線も非電化なので竜が乗っているのは汽車が引く客車です。
物語後半にちょびっとだけディーゼル機関車も出てきますが、まだまだ蒸気機関車が主役だった時代です。

さて、物語自体はいわゆるやくざものですが、その辺りの描写はライトなのであんまり考えずに楽しめます(リアルなやくざものを楽しみたい人には物足りないかもしれませんが…)。


この映画には、戦後すぐの金沢や能登の景色が背景に映されています。

冒頭の金沢駅や駅前の景色、中橋の陸橋はすでに現代では全く失われた景色です。
金沢駅の周りには高層の建物は全く存在せず、金沢別院の大屋根が遠くに見えました。
そこには、昭和時代の建築家や文化人がよく言うところの「黒い甍が連なる」町並みがありました。

また、物語の舞台の中心は、金沢の繁華街です。
現代でも金沢の中心である香林坊は当然出てきますが、アーケードがかかっていた時代の横安江町商店街も出てきます。
これらの繁華街においては、瓦屋根が多い金沢駅前に対して、戦前戦後の近代建築が連なります。
こちらは言われなければ金沢だと分からない景色かもしれません。
ちなみに、この繁華街の景色もほとんどはすでに失われています。

こう見ていくと、この映画が制作されてからの約60年間で、金沢の町並みは激変したことがわかります。
この時すでに近代化が進んでいた香林坊ですら、当時の建築はほとんど残っていません。

また作中では、卯辰山から金沢城方向を見るアングルが登場します。
現代では浅野川沿いにマンションが建ち並んで景色は失われましたが、一方で足元の町家は多くが変わっていません。

繁華街の近代建築よりも、建築年代ではより古いはずの町家の方がよく残っている。これは金沢に限らず、戦災に遭わなかった都市ではやむを得ないことかもしれません。
しかし、金沢市が掲げるような、各年代の建築が共存する「歴史的重層性があるまち」という概念をまともに捉えるならば、香林坊の当時の景観を見た時にも、現代に通ずるものが感じ取れなければいけないようにも思います。

特に、今後も含め、昭和年代の建築をどう残していくかは大きな課題に感じられます。
本多町の旧石川県立図書館は取り壊しの方向性で進んでいるようですが、隣接する社会福祉会館との並びは、金沢のモダニズムを象徴する景色であると言えます。
昭和戦前までの建築が重視される一方で、戦後の建築があまりに顧みられないのは残念でなりません。

少し話が広がりすぎましたが、この映画で戦後すぐ、近代化が大きく進展する前の金沢の姿を見ることができて、感慨深いものがありました。
金沢の戦後近代史、特に都市史では(他都市に比べて)現代から見た時に、町並み保存の施策等を優れたものとして語るものが多いように思います。
しかし、こういった形でかつての金沢の姿を見て、より批判的に金沢の都市史を語る必要性も感じました。
懐古趣味でも、「結果的に良かった」というある種の諦観でもない見方でのあり方です。


さて余談ですが、作品の舞台は金沢である一方で、ロケ地は金沢と能登が半々くらいでした。
能登はおそらく能都町の宇出津でしょうか。
他には見附島もシンボル的に登場しました。

こういった映画でのあるあるですが、土地勘がある人間からすると、その移動はありえない!ということもしばしば発生していました。
例えば、香林坊のお店を出たら能登の海沿いにやってきたり、能登キリコの祭りがやっていたりなど。
ツッコミどころは置いておいて、能登の町並みや風俗もよく映像に残されていて、この点でもとても貴重に思います。

さらに、冒頭のキャスト表記に「吉永小百合(新人)」と書いてあるのも見逃せません。
当時新人の吉永さんは、この映画のロケのため、1人で金沢行きの列車に乗ったエピソードが残されています。

これも余談ですが、若い頃の宍戸錠さんが、作中では半二枚目くらいの立ち位置でしたが、滅茶苦茶にかっこよかったです。
当時の男性はこういった男に憧れたんだなあ、と。

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