新春,東京の展覧会 下
東京で見た展覧会の続きです。
東京国立近代美術館「大竹伸朗展」
大竹伸朗氏は1955年生まれ、1980年代にデビューして以来、日本の現代アーティストのトップランナーとして活躍されてきました。恥ずかしながら、私は氏を取り上げた展示を見たことがなかったので、この大解雇展を通じて氏の作風、考え方などの一端を知ることができました。
さて、展覧会は大きく7つのテーマに分けられており、「自/他」「記憶」「時間」「移行」「夢/網膜」「層」「音」という題がつけられていました。
展示作品は絵画、彫刻、写真等多岐に渡り、大竹氏のアーティストとしての表現手法の幅広さに驚かされます。しかし、手法や表現が変わったとしても、多くの作品に共通する何かが形成する「大竹ワールド」が展示室の空気感から感じられました。注目したいのがアウトプットとしての作品ではなく、連作として展示されている、スクラップブックです。このスクラップブックの存在は、展覧会冒頭で解説されている、
という文章にも端的にあらわれており、氏が作品を生み出す動機は内面的な情動等に依拠するのではなく、外部にある様々なものを起点として、それらをコラージュする形で生み出されていることがわかります。
個人的な印象として、現代アートの展覧会の中では比較的わかりやすい展示だったかなと思います。作品ひとつひとつに社会的な強いメッセージなどが込められているということではなく、作品自体に素直に向き合える展覧会だと感じました。もちろん、東京国立近代美術館の展示環境自体のノイズの少なさもあると思いますが。
国立近現代建築資料館「原広司ーーー建築に何が可能か 有孔体と浮遊の思想の55年」展
建築家・原広司氏の展覧会です。氏の代表作としては、JR京都駅ビルや梅田スカイビルが有名ですが、本展示での見どころは初期に取り組んでいた住宅作品や小規模な公共建築の資料ではないでしょうか。
氏が活躍した(現在ももちろん活躍されていますが)年代はポストモダンの最盛期。先日亡くなられた磯崎新氏をはじめ、様々な建築家が独自の建築論を唱えていた中で、原氏も「有孔体」という理論を唱えます。詳しい有孔体理論の説明は展覧会での解説に譲りますが、インターナショナルスタイル、つまりモダニズムへのアンチテーゼという点では時流に乗ったものでした。
しかし、原氏の作風は当時のポストモダン建築とは異なり、例えば近代以前の洋式建築の意匠を切り貼りしたようなファサードや、様々な異素材を組み合わせて作られた彫塑的な造形が見られるわけではありません。有孔体理論に基づき、内部空間の要請に則ったプランと、幾何学的な形態が浮遊するように結合した造形が、どの引用先のイメージとも結びつかない、非常に独自性の強いファサードを生み出しています。
と、氏の作風についてさらりと紹介しましたが、やはり個人的な最高傑作は京都駅ビルだと思います。駅吹き抜けの内部に立ち、V字の谷を見下ろした時に、京都という都市から隔絶されて単なる駅ビルから超越した、私のイメージとしてはジブリ映画でお馴染みの「ラピュタ」を連想させるような、近未来的でありながらどこかで非人工的なランドスケープを意識させる世界観を持っています。
ちなみに、京都駅は大階段が有名ですが、伊勢丹内部にあるエスカレーターも見どころです。行かれた際には、上りは大階段、下りはエスカレーターを体験されるのをおすすめします。
高島屋史料館Tokyo「百貨店展」
日本橋高島屋本館にある、高島屋史料館で開催されている展覧会で、会場構成・グラフィックデザインをUMAが担当しています。テーマは百貨店の建築史で、百貨店と聞くと田舎出身の人間としてはわくわくせざるを得ないものでしたが、さらに近代建築を学んだことで、色々と合わさった結果、百貨店建築は花形の建築のような印象があります。
会場自体はこぢんまりとした展覧会でしたが、壁面に展開された年表では現代までのおもな百貨店の推移と代表的な建築の写真が並べられ、建築に興味の無い人にとっても見応えのあるものでした。取り上げている百貨店建築は、石本喜久治「白木屋百貨店日本橋店」、久野節「松屋浅草店」、そしてW.M.ヴォーリズの「大丸心斎橋店」と、意匠のバリエーションから見てもとても「刺さる」チョイスだなと思いました。(高島屋日本橋店も日本を代表する百貨店建築ですが、この展覧会ではあえて取り上げないということでしょうね)
なお、年表は撮影不可ですが、高島屋の向かいにある丸善日本橋店で縮小された年表が販売されています。私ももちろん購入しました。
数量が潤沢にあるわけでは無さそうなので、欲しい方はお早めに。
この展覧会の後はショッピングモールをテーマにした展覧会を予定しているようです。こちらも興味深いので、また東京に詣でようかと思います。
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