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「我」だけじゃない?実は中国語にもたくさんある一人称

日本語には「私」「僕」など自分のことを表す言葉(一人称)がとてもたくさんあり、これは数ある言語の中でもとても珍しいと言われています。中国語の場合はどうかというと、一般的には「我」だけだと思われがちですが、実は他にもさまざまな言い方があるのです。どんなものがあるのか見ていきましょう!

相手との関係性で使う中国語の一人称

まず比較的よく使うものとして、親子などの家族関係では、中国も日本と同じように家族としての自身の肩書(爸爸、妈妈など)を使ってそのまま一人称として使うケースがあります。

例文:
A:哎哟,暑假明天就结束了,我没有做好很多作业。
B:你活该啊,妈妈多跟你说过作业要早一点结束哦。
A: Āiyō, shǔjià míngtiān jiù jiéshùle, wǒ méiyǒu zuòhǎo hěnduō zuòyè.
B: Nǐ huógāi a, māmā duō gēn nǐ shuōguò zuòyè yào zǎo yīdiǎn jiéshù ó
A:あー、夏休みが明日で終わっちゃうよ。まだ、たくさん宿題残っているのに。
B:言わんこっちゃない。お母さんがあんたに何度も言ったでしょう。宿題は早いうちに終わらせろって。

また、他者との関係性を含んだ一人称と言えば、【咱们(zánmen)】という言葉も有名ですね。直訳すれば「私たち」ですが、「我们」のように自分方や相手方を区別することなく、1つの集団として一括りにした言い方です。

例文:
A:今天我们部门之外,其他部门同事也来帮忙啊。
B:很好,那么咱们一起做就很快结束了吧。

A: Jīntiān wǒmen bùmén zhī wài, qítā bùmén tóngshì yě lái bāngmáng a.
B: Hěnhǎo, nàme zánmen yīqǐ zuò jiù hěnkuài jiéshùle ba.
A:今日は俺たちの部門だけでなく、他の部門の仲間も手伝いに来てくれたぜ。
B:いいねえ。それなら一緒にやってさっさと片付けようぜ。

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特殊な中国語の一人称「老子」

老子と聞くと、ほとんどの日本人は中国の春秋時代の有名哲学家を思い浮かべるのでしょうが、人称としてのこの句は実に奥深いものです。

代表的なものとしては「ワシ」「吾輩」という、頑固ではあるが愛すべき老人が使うような表現が挙げられます。しかし、もう1つあまり良くない表現でも使われますので注意が必要です。

例文:
A:你真狠心耶,怎么这么对待她?
B:关你屁事啊,我老婆的事情呢,老子要怎么样就怎么样。
A: nǐ zhēn hěnxīn yé, zěnme zhème duìdài tā?
B: guān nǐ pìshì a, wǒlǎopó de shìqíng ne, lǎozi yào zěnmeyàng jiù zěnmeyàng.
A:お前、残酷なやつだな。なぜ彼女をこんな風に扱う?
B:お前の知ったことか。女房のことは、俺様が好きなようにやるんだよ。

このように冗談で言う場面もありますが、語気によって悪い意味にも取られかねないので気をつけたいところです。

また、女性が「老子」と同じ表現を使う場合、「老娘(lǎoniáng)」という表現があります。これは、「アタシ」「アタイ」という姉御肌的表現で、比較的年増の気の強い女性が威勢を張る場合や冗談っぽく言う場合にも使われます。

「アタクシったらホントに美しいわ」 Weiboより

その他、「老王(lǎowáng)」「老张(lǎozhāng)」「老李(lǎolǐ)」など、本来高齢の方にその方の苗字を付けて呼ぶこともありますが、逆にこれをその本人が一人称として使う場合もあるでしょう。この場合、前に「我」を付けて、「我老王」という句などで自分が高齢であることを強調して表現する形となるわけです。

日本のアニメの影響でネタ的に使われる「俺」

日本人男性の代名詞とも認識されることも多い「俺(ǎn)」。日本のドラマやアニメでも頻繁に使われることもあって、若い中国人を中心にネット上で書き込むことも少なくありません。

単純にスラングとして、文章中の「我」を「俺」に変えるだけで、「俺也差不多(Ǎn yě chàbùduō)」などのように使うのですが、言い回しを変えた背景が日本人には比較的わかりやすいことから、むしろ可愛くも思えることもあります。

しかし、現代スラング会話での言い回しを除き、「俺」を使う場所が中国の社会に全くなかったというわけではありません。特に古い中国社会だけでなく、現在でも地方農村部に行きますと、比較的高齢の世代が普通に自分を指す表現として男女区別なく使う場合もあるようです。

中国のテレビドラマでも、農村劇などではごくたまに見られることがあるようですが、おそらく若い世代の中国人になるとそのような事情は知る由もないのかもしれません。

今や流行語になったセリフ 「三国志演義」より

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創作物で見られる古語の一人称いろいろ

中国の時代劇として知られる「古装劇」。現代会話では見られない難しい古語も多く出てきます。その中でも、特にメジャーなものを挙げてみます。

【朕(zhèn)】
いわゆる皇帝が発言する際に自らを指す一人称です。日本人には比較的分かりやすいものでしょう。

【哀家(āijiā)】
そして、皇帝の母上である皇太后が自分を指して言う一人称。かなり控えめでありながら、威厳のある表現に感じられます。

【妾(qiè)】
この字は日本語で「めかけ」と読み、通常は愛人的な意味を持ちますが、古装劇の中では、「臣妾(chénqiè)」という2文字で出てくることもよくあります。この場合、皇帝の皇后や妃が皇帝と話す場合に自分を遜って指す一人称となります。

また、【奴婢(núbì)】も時折、劇中にて「臣妾」と同じ意味で使われることもあります。これは、皇后や妃が皇帝の下の立場で仕えているという意味合いを持つことから、いっそう遜った表現と言えるでしょう。

【吾(wú)】
この字は、日本では先述の「吾輩」という言葉にも出てきますが、中国語では皇帝の家臣としての「我」「我ら」という表現で頻繁に出てきます。

例文:
吾皇,万岁,万岁,万万岁。
Wúhuáng, wànsuì, wànsuì, wànwànsuì.
我ら皇帝陛下、万歳、万歳、万々歳。

※ちなみに、中国語の「万岁」とは日本語でいう万歳を意味すると同時に、皇帝そのものを表すことも多く、古装劇の中では家臣が皇帝の尊称である「万岁爷(wànsuìyé)」で呼ぶ場面もよく見られます。

【臣(chén)】

これも皇帝の家臣が自身を呼ぶ遜った言い方。しかし、これとは別により遜った【奴才(núcái)】という言い方もかなり有名です。

「臣」は単に家臣であることを表すだけですが、「奴才」の場合はより腰の低い、より皇帝を引き立てるイメージがあるでしょう。特に、「奴才」は古装劇では悪役となりやすい「太监(tàijiàn)」いわゆる「宦官(かんがん)」がよく使う表現でもあります。

まとめ

中国語には日本語にあるような敬語表現はあまり目立ちませんが、このような一人称の使い分けによって、上下関係を明確にすることができるので、事実上の敬語用法と言ってもよいでしょう。

これらの表現は、一見すると複雑なように見えますが、比較的覚えやすく、日本にもある漢字に対する新たな発見にも通じる部分もあって、実に学習しがいのある分野となります。