見出し画像

WRA9-1 MUN - SHU (R Peter Bankes)「ワンサイドゲームでの身の置き所」

今回分析する試合は、プレミアリーグ第20節マンチェスターユナイテッド対シェフィールドユナイテッドの試合です。

首位と1ポイント差の2位のマンチェスターユナイテッドに対して、試合前の時点で19試合でわずか勝ち点5(1勝2分)目下最下位を走っていたシェフィールドユナイテッド。

皆さんご存知のように2‐1でシェフィールドユナイテッドはマンチェスターユナイテッドを下し、ある意味ジャイアントキリングを起こした試合です。

この試合を担当したのが2週間前の#7で分析したピーターバンクス主審だったこともあり、興味があり分析する試合として選びました。

ある意味サッカーだからこそのジャイアントキリングであり、非常にスタッツ面でも面白いので「ワンサイドで押されていても勝つゲーム」の分析という観点で見たいと思います。

本日もよろしくお願いします!

(にしてもよくこのユニフォームの組み合わせ使いましたね…)

STATS

MUN 1-2 SHU
GOAL MUN Harry Maguire 64'| SHU Kean Bryan 23'Oliver Burke 74')
Cards MUN Axel Tuanzebe 45+2|SHU John Lundstram 40'

75.8 Possession % 24.2
4 Shots on target 3
16 Shots 5
986 Touches 435
803 Passes 257
21 Tackles 15
8 Clearances 28
7 Corners 2
0 Offsides 5
1 Yellow cards 1
10 Fouls conceded 12
(https://www.premierleague.com/match/59089より引用)

ご覧の通り90分間マンチェスターユナイテッドがボールをキープしていました。前半と後半のスタッツをSofaScore(世界中のスタッツが細かく載っていて滅茶苦茶便利です)でも確認しましたが、前半と後半でボール保持率には差はあまりなく、パス数にも4倍近い差がついています。

ある意味での「ワンサイドゲーム」になった際のポジショニングについて見ていきたいと思います。

Peter Bankes主審のポジショニング「審判員にとってのハーフスペース」

スタッツの項でもお話しした通り、基本的にこの日のマンチェスターユナイテッドはDFラインからボールを保持し、シェフィールドユナイテッドはしっかりと3ラインを形成して、ブロックをしっかりと固めています。

これは8:00にカメラに写っていた様子を図示したものです。

スライド1

シェフィールドユナイテッドの選手たちはボールホルダーにプレッシャーをかけることなく、リトリートしてラインを形成しています。その状態でバンクス主審は2つ目のラインの選手と同レベルに立って歩いて様子を見ています。

プレッシャーがかかっていないときにプロレベルだとミスが起こる可能性は低いと考えられます。そのため、バンクス主審はボールホルダーより「判定が重要なエリア」であるバイタルエリア付近に意識を多く置いています。

もちろん全ての判定を正しくするのが理想ですから、フィールド上全部のエリアが大切なのですがそれはある意味空虚な理想といえるかもしれません。

やはりサッカーにおいて判定が試合を左右するのはペナルティーエリア付近ですし、そこで判定をミスすると選手の運命を変えてしまうこともあります。そのようなエリアで判定を落とさないためには捨てるべきシーンもあります。このようなボールホルダーにプレッシャーがかかっていないシーンで最適なポジションに行く必要は全くないと思いますし、ボールポゼッションが円滑に進んでいる場合には「判定が重要なエリア」意識を多めにおいておきます。

そうするとシビアな判定が要求されたときに比較的低い心拍数で、視線のブレが少なく判定をできます。だからこその守備側の2列目の選手と同レベルもしくは背後にポジション取りをしているのです。「MFとDFの間のスペース(ハーフスペース)」は審判にとっても大切です!

気になったシーン

1:12 MUN9 アントニー・マルシャル選手が傷んだシーン

下がってボールを受けたMUN9アントニー・マルシャル選手に対してマンツーマンのような形で付いて行ったSHU15フィル・ジャギエルカ選手の2人が接触したシーンです。落ち方が悪かったため痛んではいますが、ジャギエルカ選手がボールにクリアにコンタクトしており、ノーファウルが妥当だと考えます。

解説の粕谷秀樹さんが指摘するようにジャギエルカ選手の肘がマルシャル選手の脇腹付近に確かに接触してはいますが、程度が不用意を超えるものではなく、フットボールコンタクトの一環だといえると考えます。(不用意ってなんだと思われる方下記の投稿をご覧くださいますと嬉しいです)

バンクス主審も15mほどの適切な距離と角度で、落ち着いた姿勢で見ており、正しい判定かと思います。

その直後にシェフィールドユナイテッドの反則があったため、ケガのマネジメントを早めに行えたのはバンクス主審にとってはよいタイミングだったと感じます。

16:03 オフサイドディレイからのキャンセル

シェフィールドユナイテッドがこの試合初めてのビッグチャンスを作ります。そのシーンでスルーパスから抜け出したSHU10ビリー・シャープ選手がオフサイドポジションにいることは副審2のニック・ホプトンさんはパスの時点で認識していたかと思います

ですが、フラッグアップしてしまうと得点のチャンスを完全に奪ってしまうことになるため、フラッグアップをせずにいわゆる「オフサイドディレイ」を行いました。

この「オフサイドディレイ」はVARがいる試合のみで使われるテクニックです。得点のチャンスを奪わずにとりあえずプレーを続けさせ、結果が出てからフラッグをアップするというものです。仮にゴールになった場合必ずVARはオフサイドの有無をレビューしますので、得点というサッカーのおもしろさをつぶさなくて済むという意味で実施されています。

今回ニック・ホプトンさんはMUN1ダビド・デ・ヘア選手がセーブした時点でディレイを終え、フラッグアップしてバンクス主審にオフサイドの反則があったことを伝えました。しかし、バンクス主審はデ・ヘア選手がセーブしたボールが味方に転がり、安全にキープできたと判断しフラッグアップをキャンセルしました。

その結果マンチェスターユナイテッドのカウンターになり、MUN11メイソン・グリーンウッド選手のエリア内への侵入というチャンスまで到達したため、このキャンセルを使ったアドバンテージは素晴らしい判断だったといえると思います。

余談ですが、解説の粕谷秀樹さんのおっしゃる通り、斜めの角度で映像を見てもオフサイドかどうかは全く分かりません。その部分もみんなに知ってもらえればいいなという風に感じました。

また、オフサイドディレイに関しては34:30にもありました。本当に大変な時代になったものです。

26:57 SHU19デイビッド・マクゴールドリック選手へのホールドはあったか?

シェフィールドユナイテッドの攻撃シーンです。ラフなボールをマンチェスターユナイテッドがクリアできずに、SHU19デイビッド・マクゴールドリックの前に転がります。その際MUN29アーロン・ワン=ビサカ選手がマクゴールドリック選手のことを手で押さえたようにも見えます。

私個人の印象としてはまだホールドはされていないといえると考えます。押さえる反則は程度に関係なく罰せられる反則ですが、現実的には程度も関係してきます。この程度でホールドをとっているとサッカーがつまらなくなると考えるので、ノーファウルが妥当だと考えます。これが私のサッカー観であり、私にとっての競技規則の精神です。

バンクス主審もこのシーンが反則くさいことは感じており、両手を横に広げる強いジェスチャーでノーファウルを伝えています。このようなマネジメントは素晴らしいと思います。

29:08 SHUGK1アーロン・ラムズデール選手へのジャンピングアットはあったか?

SHUGK1アーロン・ラムズデール選手がボールを空中でキャッチしようとしたが、ボールをこぼしてしまったシーンです。MUN5ハリー・マグワイヤ選手にジャンピングアットの反則があったとしてファウルをバンクス主審は取りました。

そのこぼれ球をマルシャル選手がゴールに流し込んだため、少し大きな反応がマンチェスターユナイテッドの選手たちからありましたが、このシーンに関して反則を取ることは妥当だと感じます。ただ、取らない審判員もいる可能性はあります。

理由はマグワイヤ選手がボールにコンタクトできずに、ボールが来る前の早いタイミングにラムズデール選手にベクトルの向いた動きをして接触しているからです。ジャンピングアットは程度に関わって判定すべき反則です。

そのため、程度を判断すると相手に注意や配慮が欠けている「不用意」に該当するとして、反則とするのが妥当だと個人的に考えます。また、バンクス主審も真横から接触面を見れる素晴らしいポジションで監視していましたので、尊重すべきシーンです。

2020ルヴァンカップ決勝の柏レイソルの得点のシーンの大谷選手のプレーと何が違うのかというと「程度」です。際どいシーンではありますが、柏7大谷秀和選手の動きのベクトルはFC東京GK13波多野豪選手に向かっていないと個人的に考えます。そのためノーファウルが妥当だと考えます。

よく「キーパーチャージ」という言葉がないことばかりが強調されますっが、厳密に言うとキーパーへのチャージが反則となることはあります。それは、程度が不用意・無謀に・過剰な力で行われたときです。GKの特権はPA内で手を使えることのみで、それ以外はFPと一緒に考えるということです。

以前はGKはゴールエリア内では守られるべき存在で、キーパーに接触すれば「キーパーチャージ」がとられていましたが、現在はFPと同じく接触の程度が小さければノーファウルになります。ユニフォームの色が違って特別に見えがちですが、判定時にはFPと同じユニフォームを着ているイメージで判定しなければいけないです。

39:27 SHU7ジョン・ランドストラム選手への警告

SHU7ジョン・ランドストラム選手がセンターサークル付近でMUN9アントニー・マルシャル選手がドリブルしようとしていたところを思いっきりユニフォームを引っ張って止めて、警告が提示されました。

大きなチャンスとなる攻撃に該当するかは?がつきますが、これだけ引っ張って止めて警告が出ないと試合で不自然なため戦術的な目的(反スポーツ的行為)で警告していいかと思います。警告理由に関しては、一応反スポーツ的行為の項に書かれている部分は「たとえば」であるので、結構適用の幅が広いと感じます。以前あった「戦術的目的」を使ってもいいとは思うのですが、確信はないです。だれか詳しい人いればご意見ください。

45+1:15 MUN38アクセル・トゥアンゼベ選手への警告

SHU4ジョン・フレック選手に無謀なタックルをしたとして、MUN38アクセル・トゥアンゼベ選手に警告が提示されました。

上の投稿で見た程度の基準を用いて、警告に該当するか見てみましょう。

「ケガの危険性」⇒足裏が向いてはいたものの、実際に接触した部位は足裏ではなく、足首からふくらはぎにかけての側面であったのでそこまで高い訳ではない セーフ

「チャレンジの意図(ボールor競技者)」⇒ボールにプレーしようとしているが、結果的には全くプレーできていない。 アウト

「タイミング」⇒ボールが出た後に接触したことから遅れている アウト

「スピード」⇒走って滑り込んでいるためスピードは速い アウト

「チャレンジの距離・強さ」⇒一応片足をたたんで配慮はしているが、コンタクト自体は強い アウト寄り

以上4項目アウトということで警告が妥当だと思われます。部位がアウトだったらレッドカードでもおかしくない強度の危険なタックルだったと感じます。

まとめ

非常に判定基準が明確で統一されている印象を受けました。

動き面はこれだけのワンサイドゲームだと走行距離が少なく済み、大事な局面では落ち着いた心拍・姿勢で判定をすることができているように見受けられました。このことが、統一された判定基準につながった容易だと感じます。

また、純粋にサッカーという競技の奥深さを感じられる前半でした。これだけボールポゼッションしても、勝っているのは押されていたチームで、そのゴールはコーナーキックからでした。サッカーは点を取るゲームであり、「ポゼッション=正義」ではないと考えさせられる試合でした。マンチェスターユナイテッドはカウンターに特徴のあるチームであるからこそ引かれたときの最後の崩しという部分に課題があるのかとも感じました。サッカーって本当に奥深いですね。

本日もお読みいただき、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。







もしよろしけれサポートいただけると幸いです いただいたサポートは、自身の審判活動の用具購入に使わせていただきます。