ショートショート「±4時間」

 1日が28時間になった。突如として夜が4時間長くなったのだ。口では働き方改革だのなんだの言っていたが、具体的な策を出せなかった政府はこれ幸いとばかりに、正式に1日を28時間とし、長くなった夜の4時間は睡眠に使うよう推奨した。睡眠時間の短さが、他の先進国に劣っているところであるという点を、これで補おうとしたのだ。こうして大勢の人が仕事を早めに切り上げ、家に帰って寝るようにした。
 というのは表向きの話で、実際にはそうする者はあまり多くなかった。時間の流れが変わっても、体質はそう簡単には変わらない。ほとんどの人間は夜が長くなったのを幸いに、酒をいつも以上に飲んだり、遊び歩いたりするようになった。しっかり寝ようとした者もいたが、まだ暗いうちに起きてしまい、ダラダラと時間を潰すのが落ちだった。
 そうするとどうなるか。生産性が上がるわけもなく、浪費が増えたことで貧富の差が広がってしまった。時間が伸びたことで、その時間をより有効に使おうとする者と、その時間を遊びや睡眠に使おうとする者の間に、これまで以上の差が生まれてしまったのだ。そもそも、他の先進国だって、4時間伸びたことには変わりないのだから、差が埋まる訳でもなかった。
 ここまでのことが予想できず、焦った政府は1時間を70分とし、1日を元の24時間として区切ることにした。こうして人々の生活リズムはある程度戻ったが、一度開いた貧富の差はなかなか埋まらなかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?