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英検一級講師が共通テストを解いてみた。リスニング編

こんにちは。札幌の大通りで英語講師をしているアラといいます。

前回のリーディング編に続いて共通テストの英語リスニングテストを解いてみたので、思ったことを書いていきます。

去年と比べると

まず、前年と比べると簡単になった、と思いました。英語音声そのものが簡単になったというよりも、大問ごとの複雑さにメリハリがついた印象です。最後にでてくる高配点の第5問、第6問はそれなりに複雑なのですが、他の問題はとても素直な問題ばかりでしたね。こういうメリハリは良いと思います。

点が取りにくいところとそうでないところがはっきりすると、受験生は対策がしやすいでしょうし、配点が高い問題はちゃんと難しいので、ちゃんと時間をかけて練習するという真っ当な対策をする子が増えるんじゃないかと思います。

複雑すぎるテストの問題点

設問が複雑すぎたり、難易度と配点が合っていないと、どうしても裏ワザ、近道、攻略法を探ってしまうのが人情です。それが人情ではあるのですが、大学受験というイベント自体は大変不人情なもので、「楽をしたい」という自然な感情に流されて、勉強のショートカットを何ヶ月も探してしまった受験生には、まったく容赦がありません。

だから、若者にある意味不自然な努力を要求したいのなら、初めから「この部分が出来れば大抵の大学のボーダーは越えるよ。もっと上の大学がいいならもっとがんばってね。」という真っ直ぐで誤解の余地のないメッセージを彼らに送り続ける必要があると思います。

良いテストだった

その点、今回のリスニングテストは、学校で配られるリスニング教材を真面目に取り組んでいけば70%は取れると思います。なので良いテストだったと思いますね。リーディングのほうも、選別という点では別に悪いテストじゃないけれど、あまりに面倒な作業が多くて、このテストに向けて長期間努力を重ねていく意義が見出しづらいというのが問題点だったと思うのですが、リスニングはいろんな発音、いろんな話題がありましたし、どこかユーモラスな雰囲気もあり、解いていて楽しかったです。高校生諸君も、これならがんばってみてもいいかな、と思えるんじゃないでしょうか。

でも文句もある

と、褒めてますけれども、最後の第6問についてはちょっといただけないな、と思うところがありました。前年同様、4人の人物の会話を聞いて設問に答える問題でしたが、前年の問題はあまりに複雑で、英語が完璧に聞こえても正解が難しいものでした。外国語を聞いて、メモをとって、考える、という三つの作業が課されるのですが、時間制限が厳しすぎる作業量だったと思います。一方今年は複雑さは下がったものの、リーディングでも気になった「それになんの意味があるのか」という点がありました。

4人の若者が南国に観光に来ていて、エコツーリズムがどうのこうのと話しているのですが、設問が二つあり、1問目は4人中何人がエコツーリズムに賛成しているかを問い、2問目は4人のうちのある人物が自説を開陳していて、その説の根拠になりうるグラフを選ばせる問題でした。

どちらも良い設問だと思います。ちゃんと会話の内容を掴んでいるのかが問われています。しかし、一つ目の賛成している人数の問題については、最後の1人がなかなか態度を明らかにせず、終始曖昧な態度を取り続けます(日本人の男の子でしたね)。結局この人物は賛成はしていないので、賛成したのは2人だな、と分かるようになっているのですが、情報を引っ張りすぎて正解が分かった時には次の設問に関する話題がはじまっています。つまり、ここで1問目の回答をマークし始めたら負けなのです。この時点では問題用紙に印をつけ、聞くことに集中していなくてはいけません。そうすれば次の設問も正解できるでしょう。

アプローチが限定されすぎている

個人的には、こういう解き方が極端に限定されるテストには懐疑的になっちゃいますね。今回も、最初の設問をいきなりマークし始めた子はその次の設問は解けなかったんじゃないかと思います。二つ目の設問は良い問題だし、ちゃんと身構えてしっかり聞いて、しっかり考えて解いてほしい問題です。そうであるならば、前の設問からぬるっとつながっちゃうような構成にする必要はないと思います。大事なことは大事なこととして扱うべきでしょう。「大事なことが埋もれていることもある」なんて意地悪しても、一次試験としては得るところがない。実際に大事なことを話す場面なら、必ず繰り返して言うのが普通でしょうし、相手に質問もできるでしょうから、理解するチャンスはもっと多いものです。盗み聞きしてるわけでなし。

それに、メモを取りながら聞く、と言いますけど、この英文音声でメモを取るべきことって本当に賛成した人数だけでしょうか。誰がどんな理由で賛成、反対なのかというところが、おそらく一番大切であるはずです。そうでなければこの四人の会話をじっくり聞く意味なんてないでしょう。でも時間的に、賛成の人数くらいしかメモできないんですよね。録音デバイスも発達したし、個人の意見はネットで表明できる。そういう時代にササっと取ったメモにどういう価値があるのかいまいちピンときません。メモを取ることに意識を使うぐらいなら、聞くことのみに集中した方がいいのでは?

軽いよ、意味もなく

ちなみに、設問に関係する会話が終わった後、「ま、どうでもいっか。そんなことより海行こうぜ!」みたいなやり取りをして全体が終わります。そんなどうでもいいことに躍起になっている受験生の気持ちを思うと胸が痛みますね、ホント。リーディング編でもそうですが、どうしてこう、若者がそれなりに長期間努力をしていこうと思いづらい軽い感じを出すんでしょうねえ。大学入試なんて真面目で実直でちょっと堅苦しいくらいで丁度いいと思いますけど。

まとめると

今回の共通テストの英語は、リーディング、リスニングともに「普通に勉強してきた子」と「エリート志望の子」をはっきり分けようとしたがっていたように思いました。それは上手くいっているんじゃないかと思います。ただ、そのために理不尽な複雑さや、取り組む意義が感じにくいといったマイナスもあった、と思います。

でもやっぱ結構いいテストだった。特に本文と音声が。

共通テストも2年目になり、改めてセンター試験時よりも自然で良い英文が増えていると思いました。この点が素晴らしいことですね。テストを作っている皆さんのご尽力の賜物だと思います。共通テストの本文や音声は、今後間違いなく日本の中高生の英語学習の明確な標準になるでしょう。2回目の今回でそのことがはっきりしたと思います。「学校の英語」「受験の英語」と言うと否定的な響きがありますが、「共通テストの英語」は「普通の英語」という意味合いを帯びていくことでしょう。ただ設問はもっとシンプルにしてほしいですし、あんまり若者っぽさとか流行とかを追いかけないで欲しいですね。

では、今回はこのへんで。

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