見出し画像

文法の勉強の難しさ

こんにちは。札幌で英語講師をしているアラと言います。

今日は英文法を勉強する際の注意点というか、どうしてもつきまとうある困難さについて書いてみたいと思います。

本屋さんで買える英文法の本がもつ特徴

そう、文法の勉強には独特の難しさがあります。理由はいくつもあるのでしょうが、一つには、本屋さんで売られている英文法の本が、ある特徴を持っているからじゃないかと思っています。

それは、学校で扱っている文法をベースに、著者ごとの色々な説明の工夫が加えられている、という特徴です。

この特徴は、それだけで良いとか悪いとかいう話ではありません。この特徴が孕むややこしさに注目してみると、文法を学ぶ際の手がかりになるんじゃないかと考えています。

検証不足

ではこの特徴がどういうことなのか考えていきましょう。学校で教えられる文法をベースにしているということは、つまり、古い、ということでもあります。以前にも書きましたが、大正時代に導入された考え方を検証せずに使い続けている部分があります。もちろんその中にも優れた考え方があったりもするのですが、いずれにしたって検証は必要ですよね。

具体的には、5文型がそうです。5文型が役に立たないとかそういうことではなく、検証がなさすぎて絶対視されることがあるのが問題です。勢い余って5文型がわかれば英語がわかる的な話も見かけますが、控えめに言っても間違いです。大正時代から5文型で教えているのに、いまだに日本人は英語が読めなくて悩んでいるんですから。

分詞が接続詞を兼ねる?

そして、著者独自の説明の仕方にも注目したいですね。分詞構文を例に、ちょっと考えてみましょう。文を作ってみます。

Seeing the bus coming, I ran to the bus stop.

バスが来るのを見て、バス停まで走って行った。

どの文法問題集にも載ってそうな文ですね。Seeing the bus comingの部分が分詞構文と呼ばれます。バス停に走っていった理由を言っていますから、動詞ranを修飾している、ということでSeeing the bus comingは副詞の働きだ、と考えるのです。で、seeingはもともと動詞なので、誰かが「see」しているはずですね。当然、バスを見たのはバス停まで走って行った人ですから「I」です。そして「バスを見た」ことが「走って行った」ことの理由を表していますから、Seeing the bus comingはBecause I saw the bus comingという「接続詞+S+V」の表現に書き換えられるよね、というのが分詞構文の説明です。

以前、ある受験向けの英文法の問題集で「分詞構文の分詞は接続詞の役割も兼ねている」という説明を見たことがあります。一読して驚きました。そんなこと言ったら、不定詞も接続詞の役割を兼ねていることになっちゃうのでは? と思ったからです。そのような解釈は不可能ではないのかもしれませんが、特段意味があるとは思えません。分詞を副詞のように使うことを分詞構文と言うわけですが、このネーミングがまさに大正時代に日本で作られたもので、とても良いネーミングだとは思っていますけど、「分詞の副詞用法はまるで接続詞+S+Vの副詞節に置き換えることができるかのような表現だ。」ということが言いたくて斎藤秀三郎先生が作った用語なわけです。ここに分詞が接続詞を兼ねていると考える必然性は感じられません。じゃあどうして主語は兼ねていないのか、とも思ってしまいます。

高校の授業では分詞構文を教えるときに、この「兼ねている」という説明はされていないはずです。上記のように接続詞を使った副詞節に書き換えながら説明していると思います(個人的にはこれも遠回りな方法だとは思いますが、理屈は通っています)。

おそらく問題集の著者の感覚では接続詞が感じられているのでしょう。それ自体は理解できます。先程のシンプルな例文であれば、僕の感覚では接続詞asが感じられます。でもあくまで個人的な感覚なので、教えるときに使えるかと言うと、ちょっと無理筋だと思います。そもそも接続詞を用いた表現に置き換えるのは説明のための方便ですから、そこにさらに「兼ねている」という考えを付け足してしまうのは、分析しすぎというか、純化してしまっているというか、理論走っているというか。

学ぶべきは、当たり前の常識的な考え方であって、独自の感性によって見出された斬新な考え方ではないのです。まあそういうのにハマる人はハマるものですし、発見があったりもしますが、受験生含め「英文法を基本からきっちりやりたい。」という人にはちょっと脂っこいですよね。もっとプレーンなものからやった方がスムーズでしょう。

参考書選びという無理難題

このように、著者なりの感覚が正解として書かれていると、学ぶ方はなかなか苦しくなります。標準的でそっけないけれど、誰が説明しても同じであることは、特に復習するときに重要になってくると思います。復習が必要なときというのは、正確な知識を求めているときですから。

反面、個人的な感覚を教えてくれた方がしっくりくる場合も確かにあるのです。とにかくもやもやするので答えを出して欲しい、という場合なんかがそうですね。正確な説明が難しすぎて、とりあえず「これはこう!」と言ってもらえれば前に進めそう、というときもありますからね。

なので、学校の英文法ベースの本を選ぶときは、基礎からの復習なのかとにかく前に進みたいのか、ちょっと立ち止まって判断すると良いのではないでしょうか。とはいえ、うーん、やはり難しいですねえ、文法の勉強は。説明の仕方の幅が大きくて参考書一つ選ぶのも難しいものだなあ、としみじみ感じますね。

じゃあどうすりゃいいの?

「じゃあお前はどうやって勉強したんだよ」といわれそうですが、僕は伝統文法と各種のマニア向けの文法書で学びました。伝統文法というのは、英語圏で英文法を教える際に長らく使われてきた文法の総称です。さまざまな考え方をまとめて指しているので、誰か特定の学者さんの文法というわけではありません。僕の場合は、Michael Strumpf先生の"The Grammar Bible"を読んだことで開眼しましたね。疑問やモヤモヤが全部吹っ飛びました。伝統文法は現在の英文法研究(統語論)とは相いれない部分もあると思いますが、学習用としてはとても有用だと思います。

日本の学校で教えられている文法も伝統文法を下敷きにしていますが、5文型など、英語圏では使われていない100年前の最新理論なんかが入り込んでいるので、ホント、文科省は早く検証して新しい教育用の文法をまとめて欲しいものです。税金使う価値がある事業だと思いますよ。

一方で、多くの学者さんは、英文法の基準というか、参照点はCGELだと答えるのではないでしょうか。CGEL(シージェル)とは、2002年に出版された"The Cambridge Grammar of the English Language"という1800ページにも及ぶ文法書です。この本が、現在の英文法に関する知見をまとめたものとして最も知られたものだと思います。もちろん、細かい点は学者さんごとにいろいろ意見があるんだと思いますが、大まかな合意点がこの本なのではないかと思います。現在、日本語訳が11文冊で刊行中です。僕も全部買ってます。一冊5,000円超えることもあるので大変ですが。

そして英文法オタクにお馴染みなのが開拓社ですね。上記のCGELの翻訳も開拓社さんです。僕はこの出版社からでる英文法の本を日々心待ちにしています。学者さんが特定の表現や文法事項について超深掘りしてくれたり、あるいは学校文法に近づけて解説してくれたり、そんな本を作ってくれています。CGELでさらっと流しているところをがっつり一冊にしている本もたくさんあります。(まれに総花的で内容の薄い本があり、注意が必要です。そういう本に当たると、やっぱりお高め本が多いのですごく悔しい。)

要するに、がんばろう、と言いたい。

さてまとめましょう。英文法の勉強は難しい。その理由は、英文法そのものが難しいことと、「正しさ」を求めるとバカみたいに手間と時間(とお金)がかかること、などがあるでしょう。その中でも今回は、学習用の英文法が整備されていないことと、それゆえ参考書によってかなり説明の幅があり、参考書選びの段階ですでに混乱しがちだよね、という側面を取り上げました。

だから、割り切ってしまうことも大切になってきます。僕も受験生を教える中で、あまり褒められたもんじゃない解説が書いてある問題集を使うことも多いです。文法は理屈を説明されただけで理解できるわけでもないので、どうしても問題を解いて身につけていく必要があります。その解説が多少ずれたものであっても、問題は有用ですから問題の難易度が自分にあったものであればためらわず試してみるといいと思います。考え方に関してはモヤモヤが残るとは思いますが、そのモヤモヤを思い切って抱える決意をするのも手だと思います。勉強を続けていればいずれ答えに巡り合うだろう、と開き直って、今は「そんなもんか」と思っておくわけです。「モヤモヤするからやらない、やりたくない」となってしまうのは避けたいですね。いや、どうしても知りたい、という方は、なんとか英文法オタクを探しだして聞いてください。主に学習塾・予備校周辺に潜んでいるはずです。

英文法全くわからない、という人は、まずは高校入試用の問題集を一通りやることをお勧めします。できるだけ薄い本がよいでしょう。投げ出しにくくなります。解説がそっけなくて意味がわからないということも多いと思いますが、とりあえず表現に出会っておくことが大事なんだ、と考えてやり切ってみると、その後の勉強がやりやすくなると思います。受験生でもない限り、同じ問題集を3周するのはシンドイでしょうけど、2周は結構できます。なので2周してみましょう。さらに、解く→マル付け→解説読む、というサイクルに慣れるだけで実力アップ間違いなしです。この作業に慣れてきたら解説を読んだ後、ミスした理由や疑問点をまとめるとなお良し、です。そして疑問点は先生にぶつけてみましょう。勉強って具体的な作業に落とし込んじゃえば、自然と量もこなせるようになっていきますよ。

では、また。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?