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プロレス英文読解教室 ハイフライ和訳編

こんにちは。札幌で英語講師をしているアラといいます。

今年度の受験、いろいろありましたが、いよいよ国公立大学の二次試験が目前です。頑張った受験生のみなさんが全力を出せることを祈っています。

さて、受験生は本番直前ですごく大変な時期でしょう。一方で教える側はもう一段落ついてしまった感じであるのも事実。特に英語なんて短期間で伸びたりしない科目です。共通テスト以降はひたすら受験生たちが過去問を解いて持ってくる質問に対応するか、英作文の添削をするか、という授業でした。

そんな中、新日本プロレスでは1月30日、棚橋弘至選手が鷹木信悟選手を破ってNEVER無差別級王者になりましたね。この試合は本当にすごかった。見ているものの魂を振るわせる素晴らしい試合でした。もう何回も新日本プロレスワールドで見返しています。

今回の英文

ということで、今回は英語版Wikipediaから棚橋弘至選手についての英文を読解していきましょう。綺麗な和訳を作るのではなく、そこそこの正確さで英文を読む練習です。

①When Tanahashi was inducted into the Wrestling Observer Hall of Fame in 2013, Dave Meltzer stated that ②"you could make a strong case for him as the best in-ring performer in the business today", ③adding that ④he was "the leading star in New Japan Pro-Wrestling's comeback from being in terrible shape a few years back to being the No. 2 pro wrestling company in the world".
Tanahashi Hiroshi(Wikipedia)

ちょっと説明しないといけないことが多すぎな文ですが、棚橋選手がいかに特別な選手であるかということを、あっけらかんと語っている文でもあるので取り上げてみました。

①の部分

①When Tanahashi was inducted into the Wrestling Observer Hall of Fame in 2013, Dave Meltzer stated that

まずはTanahashi was inductedです。「棚橋選手は指名された」くらいで良いでしょう。

では何に指名されたのか。それがinto以下に書かれています。into the Wrestling Observer Hall of Fameですね。まずレスリングオブザーバーというのは、このすぐ後に出てくるデイブ・メルツァー氏が作ったプロレスに関するニュースレターです。1982年発行ということですから、相当歴史があるわけです。今はもちろんウェブサイトとして活動しています。

そしてHall of Fame。「偉人」とか「殿堂」と訳されます。スポーツの話題でよく使われますね。つまり、棚橋選手は歴史あるプロレスメディアから偉人であると指名されたのです。殿堂入りした、と訳してもいいですね。そしてin 2013ですから「2013年に」です。

まとめると、「棚橋選手が2013年にレスリングオブザーバーの殿堂入りを果たしたとき」となるでしょう。英文の受動態がうまく表現されていませんが、日本語で「殿堂に指名される」と言うことはまずないので、「殿堂」という訳を採用した時点で、inductの訳は諦めるしかないですね。「偉人」の方を選べば「偉人に指名される」となるので少しはマシですが、これだって聞いたことない日本語ですよね。

外国語を勉強していれば「日本語ではそうは言わない」という問題は常につきまといます。なのでそこそこの正確さであればそれで十分だと思います。

では次に進みましょう。Dave Meltzer stated thatです。先程出てきましたね、レスリングオブザーバーの創始者、デイブ・メルツァー氏です。棚橋選手の殿堂入りが決まった時、「メルツァー氏はthat以下のことを述べた」ということですね。thatは接続詞です。接続詞ですからその後にSVが続きていきます。では先に進む前にここまでをまとめてみます。

「棚橋選手が2013年にレスリングオブザーバーの殿堂入りを果たしたとき、デイブ・メルツァー氏はthat以下のことを述べた。」

どうということはありませんね。では②に進みます。

②の部分と仮定法の話

②"you could make a strong case for him as the best in-ring performer in the business today",

まず覚えるべき表現、make a caseから。「(具体的に証拠や根拠を述べて)自分の正しさを証明する」みたいな訳です。ぎこちない訳ですが、覚えるときはこれくらいぎこちないほうが、他の似た表現と混ざらなくてよいと思います。今回はこのa caseを形容詞strongで修飾し、「説得力のある議論を展開する」のような訳になるでしょう。

そしてその直前のcouldがとても重要です。canの過去形ですね。過去形なのだから過去の話なのかというと、そうではありません。文末にtodayもありますし。このcouldは仮定法過去と呼ばれる表現です。

canやwillやmayなどの語を、学校では「助動詞」として習いますね。実はこれらの助動詞には本名があって、それを「法助動詞」といいます。この法は仮定法の法と同じです。

では法とはなにか。法律とか法則という意味ではなくて、これは言語学での用語ですので独特の意味があります。それは「話し手の判断や気持ちを表す」ということです。法助動詞とはつまり、話しての判断や気持ちを表すための助動詞なのです。

法助動詞について厄介なところが二つあります。一つ目は、意味(和訳)がいっぱいあるということ。canは「することができる」のほか、「する可能性がある、しうる」という訳もあります。文脈によっては他の訳になることもあります。

二つ目は、「過去形であっても過去のことを表すとは限らない」ということです。現在形を過去形に変えることによって、文の内容が過去のことであることを示すはずですね。では法助動詞を過去形に変えることによって、何を示しているのかと言うと、「話し手の判断や気持ち」の違いを表すのです。

今回は仮定法の詳しい話には踏み込まず、ここまでの説明だけで本文を読んでしまおうと思います。参考書の仮定法の話は典型的な例が多いので、まずはその内容を理解するのが重要です。とはいえ、実際の仮定法はかなり微妙な世界です。なんといっても「法」は「話し手の判断や気持ち」なのですから、微妙でないわけがない。そういう世界に踏み込むには、典型例を知っておくことが大切です。それこそが唯一の手がかりになったりします。高校生の皆さんは、共通テストで文法問題がなくなったからといって、このへん疎かにしてしまうと、ビミョーな英文が出てきた時に痛い目をみますよ。

長々書いたのでここでもう一度英文を再掲しましょう。

②"you could make a strong case for him as the best in-ring performer in the business today",

このcouldを読み解きます。まず文脈を振り返っておきましょう。棚橋選手が殿堂入りしたときの、メルツァー氏の発言でした。そしてこの先を読むとわかりますが、棚橋選手が現役であることもまた、殿堂入りに箔をつけているんですね。つまり、過去のことを語っているわけではないのです。今、棚橋選手が超スゴイ、とメルツァー氏は言いたいのです。このことを踏まえると、couldをcanに置き換えて読んでしまってもそんなに大きなズレにはならないと思います。やってみましょう。

「あなたは、彼のために説得力のある主張ができる」

といったところでしょうか。for himも直訳してあります。そしてasが来ました。asは接続詞、前置詞、副詞と様々な役割がありますが、今回はasの後ろに名詞が来ており、その後ろに動詞がないことから、前置詞asだと判断できますね。前置詞asの基本の訳は「〜として」でした。in-ringは辞書を引いて出てくるような表現ではありませんが、意味はわかりますよね。「現役でリングに上がっている」ということです。なので、

「今日、この業界で最も優れた現役のパフォーマーとして」

となります。まとめると、

「あなたは、彼が今日この業界で最も優れた現役のパフォーマーとして、説得力のある主張ができる」

となるでしょう。for himを「彼が」に変えています。asの「として」がどうにも合わないですね。ここでちょっとズルをしましょう。

「あなたは、彼が今日この業界で最も優れた現役のパフォーマーであるとして、説得力のある主張ができる」

for himの後にto beがあると考えれば、なんとか直訳しつつ日本語としての自然さも最低限確保できそうです。for himがto beの意味上の主語である、と考えてみました。

日本語と英語には本来何の関係もありません。なので直訳がうまくいかないことなんて当たり前です。それでも直訳しなければ英文の構造は掴めません。文法の基本を押さえてからの臨機応変。頑張りましょう。

さてここで、couldの話に戻ります。このcouldは、過去形にすることによってより控えめな推量の気持ちを表してます。「あなたはできる!」と断言するのではなく「あなたはできるかもしれない。」と表現を和らげているのです。「法助動詞は過去形だからといって過去のことを表すとは限らない」のですが、その厄介さは、過去ではなく何を表すのかが一つに決まってないというところです。控えめさを表すこともあれば、教科書通りの反事実を表すこともあり、また、実際には可能ではないというところから、悔しさや願望、責任の追求などの意味でも使われます。正確に理解するためには、その都度、文脈を確認して考えなくてはいけないのです。

では改めて訳をまとめてみましょう。

「あなたは、彼が今日この業界で最も優れた現役のパフォーマーであるとして、説得力のある主張ができるでしょう。」

今回は丁寧な日本語にすることで、couldを表現しています。

では進みましょう。

③と④の部分

③adding that

切りのいいところでこれだけです。addingは分詞構文、thatは接続詞です。

「that以下のことを付け加えて」

となるでしょう。問題ないですね。では何を付け加えたのか。

④he was "the leading star in New Japan Pro-Wrestling's comeback from being in terrible shape a few years back to being the No. 2 pro wrestling company in the world".

冒頭部分は「彼はトップスターである」としましょうか。ここのwasは時制の一致で過去形になっています。先程のstatedに一致しています。leadingの訳はあまり拘らないほうが良さそうです。leadingが形容詞として辞書に載っていると思います(leadの現在分詞としてではなく)。一度調べてみることをお勧めしますが、ま、予想通りの意味だと思います。今回のleadingをleadの現在分詞と見るべきなのか、それとも辞書に立項されている形容詞と見るべきなのかは、文脈次第です。現段階では決め打ちしないほうがいいでしょう。

では何におけるトップスターなのか。前置詞inの訳として「〜おける」が結構便利です。「新日本プロレスの再起における」ですね。どこからの「再起」かと言うと、from being in terrible shapeですから、「ひどい状態に居ることからの」となります。be動詞というのはかなり面倒で、先程の法助動詞じゃないですが、意味が一つに定まりません。存在の意味を表すこともあるし、そうでないこともある。今回はわざわざ動名詞beingを使っているので、存在の意味で訳してみると良いんじゃないでしょうか。

で、ひどい状態っていつのことかというと、a few years backですから「数年前の」となります。backが前置詞ならぬ後置詞のような使われ方をしています。

次にtoが来ていますから、先程のfromと合わせて、from A to B、「AからBまで」ですね。前置詞toの訳の一つに「〜まで」を覚えておくととても便利です。受験生必修のto some extent「ある程度」のtoだって「ある程度まで」です。範囲を表す時に使います。limit A to Bとか。

では、何に至るまでの再起なのか。to being the No. 2 pro wrestling company in the worldですから、「世界第二位のプロレス団体になるまで」ですね。今度のbeingは「なる」で訳しました。ちなみに世界第一位のプロレス団体はアメリカのWWEです。棚橋選手と並んで新闘魂三銃士と呼ばれた中邑真輔選手がWWEで活躍中です。

全訳

では全部まとめましょう。まず英文を再掲します。

When Tanahashi was inducted into the Wrestling Observer Hall of Fame in 2013, Dave Meltzer stated that "you could make a strong case for him as the best in-ring performer in the business today", adding that he was "the leading star in New Japan Pro-Wrestling's comeback from being in terrible shape a few years back to being the No. 2 pro wrestling company in the world".

棚橋選手が2013年にレスリングオブザーバーの殿堂入りを果たしたとき、デイブ・メルツァー氏は以下のことを述べた。「あなたは、彼が今日この業界で最も優れた現役のパフォーマーであるとして、説得力のある主張ができるでしょう。」
そして以下のことを付け加えた。「彼は、数年前の酷い状態から世界第二位のプロレス団体にまでなった新日本プロレスの再起において指導的な役割を果たしたスターなんです。」

となりました。leadingをleadの現在分詞として解釈しなおしています。「以下のことを」とか「あなたは」の当たりが不自然ですが、ま、仕方ない。直訳をベースに概ね正確に読めればよいのです。これ以上の日本語的自然さを求めると、まず時間がかかりますし、英文の文法構造からさらに遠く離れてしまいます。翻訳のお仕事でない限りは必要のない作業でしょう。

それにしても、2021年1.30、愛知県体育館の大会は素晴らしかったですね。テンコジは二人とも負けてしまったけど、どちらの試合もものすごく面白かった。多彩な技を繰り出す天山選手、机に投げつけられた後ラリアットでオスプレイ選手をリング外の脚立にぶち当てる小島選手、ほんっとうに楽しい大会でした。その後のメインが鷹木vs棚橋のNEVER戦ですからね〜。コロナで鬱々とする中、気分を爆上げしてくれる大会でしたね。

はい、長々お疲れ様でした。さほど複雑でない英文であっても、ある程度でも正確に読もうとすると様々な知識が必要です。その上文脈を常に意識しなくてはいけません。つまり、日々のトレーニング以外でどうにかなることではない、ということです。プロレス的にも「答え」は「日々のトレーニング」か「イヤァオ」ですし。

ではまた次回、プロレス英文読解教室でお会いしましょう。

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