今の彼には内緒だけれど

昔から、惚れっぽい性格だった。
小学校高学年のとき、クラスに気になる男の子が、覚えている限りで3人はいた。

あの子もあの子もカッコいい、優しい、面白い、だからなんとなく気になる、きっとこれが恋なんだ。わたしは片思いをしているんだ。

その頃は恋愛マンガも大量に読んでいたし、今思えば、典型的な恋に恋をするタイプの女子だった。

そんなわたしも、年齢を重ねるごとに少しずつ大人な思考になっていき、高校生のときには、好きな人はひとりに絞れるようになっていた。

高校1年生のとき、恋をした人がいる。

それは、同じ中学出身でもなく、同じクラスでも部活でもない、全くわたしとは接点のない男の子だった。

わたしが彼を知ったのは、学年全員が集まる集会のときだったと思う。
少し離れたクラスの列に、一際かっこいい男の子がいた。(惚れっぽい性格のわたしは、まず見た目から入るタイプだった。)

うわあ、めちゃくちゃかっこいい!

そう思ってしまったが最後、それ以降は機会があれば彼の姿を探すようになった。しかし、何一つ接点のない私たちは、交流することも発展することもなく、ただ時だけが過ぎた。

転機が訪れたのは、高校1年の冬。
わたしは当時朝練のある部活に入っていて、その日もいつも通り朝から練習に励んでいた。
朝練を終え、片付けるために部室に戻ろうとしているとき、彼とその友達が前から歩いてくるのが見えた。

わたしは瞬間的に緊張したが、でも悟られてはなるまいと自然な顔ですれ違おうとした。
彼が真横を過ぎていったその時、「痛っ」という声で立ち止まった。
振り返ると、どうやらわたしが手に持っていた部活道具が、彼の足に当たってしまったらしかった。
膝のあたりを押さえて、苦笑いしている彼と爆笑する友達。わたしはとっさに「ご、ごめん!」とだけ言って、その場を走り去った。

初めて彼と言葉を交わした衝撃と、何でぶつけてしまったんだという後悔とで、わたしの頭は混乱し、その日はしばらく授業に集中できなかった。

しかしそれ以降、彼への気持ちは明らかに高まっていき、友達に会うフリをして彼の教室に行くようになった。わたしの気持ちは周りの友達にもバレバレで、今日もかっこいい〜とか、ほんとに目の保養になる!とか言っていつも笑われていた。

でも友達の誰一人、わたしにそんなに好きなら告白したら?と言ってくることはなかった。なぜなら、彼には中学の頃から付き合っている彼女がいたからだ。
2人が長年付き合っているというのは有名で、誰もが知っていた。もちろんわたしも知っていたので、告白なんて考えず、ただひたすらかっこいい!と騒ぐだけに留まっていた。

それだけで満足している自分もいたし、彼女がいる人にアタックしていく勇気もなかったので、わたしの片思いの日々がただ過ぎるだけだった。

しかし再び転機が訪れる。

高校2年の冬、数学の成績が良くなかったわたしは、塾に通っていた。塾に通う子たちはみんな仲が良く、一緒に夜ご飯を食べたりして非常に居心地がよかった。

そんなある日、彼女が同じ塾に通い始めた。
それまでは、彼の彼女として名前と顔だけ知っている状態だったのだが、同じ塾に通い出してからは、完全に顔見知り、瞬く間に友達になってしまった。

まずわたしが思ったのは、わたしが彼のことをかっこいいと騒いでいること、ましてや好きだなんて、もし彼女が知っていたらどうしよう!!ということだった。

その真相を確かめるべく、彼女と2人で夕食を食べている時に、それとなく切り出した。心臓が飛び出そうなほどドキドキしたのを覚えている。

結論として、彼女は一切知らなかった。
え、そうなの?!というリアクションで、笑って聞いてくれた。

彼女はとても優しくて、女の子らしい良い子だったのである。

わたしは、彼女がいるのにかっこいいと騒いでてごめんなさい!という気持ちから、彼女には申し訳なさを感じていたのだが、それを笑って許してくれた彼女の人柄に驚き、そうかだからこの人が彼の彼女なんだと納得した。

好きな人の彼女とまさか仲良くなってしまうとは思ってもみなかったが、それ以降彼女とは、彼の話をするたびに大いに盛り上がり、彼女しか知らない一面や、かっこいいが故の苦労も聞いていた。

話を聞いていても全く嫌な気持ちにはならなかったのは、きっと彼女のわたしへの気遣いが話の中に散りばめられていたからだろう。
純粋に2人を応援したいと思っていたし、わたしはやっぱりかっこいい〜と周りで騒いでおくくらいがちょうどいいと思った。

そうして、彼との進展は一切なかったが、彼を目で追う日々は相変わらず続いた。

さてここで、何と3度目の転機である。

ある日いつも通り塾で夕食を食べていると、彼女から話しかけられた。
どうやら、彼女の部活仲間にわたしのことを気になっている人がいるらしく、連絡先を教えてほしいということだった。

わたしは、今まで一方的に片思いをしていただけだった自分に、まさかこんな展開があるとは、と驚き、彼女の知り合いならばと了承した。

連絡先を教えてすぐに、その人から連絡が来て、なんとなくメールをやり取りするようになった。

その人は、彼女の部活仲間というだけでなく、なんと彼のクラスメイトだった。そして彼、彼女、その人の3人は非常に仲がよかった。

その人がどうしてわたしを気になったのか、それは後に彼女から聞いた。どうやら、彼の姿を見にクラスにお邪魔しているわたしの姿が気になって、見ていてくれたのだという。

全く予期しない展開だったが、同時に悪い気もしなかった。誰かに好かれるのは当然嬉しかったし、彼との繋がりも生まれたような気がしたからだ。

それから、彼とその人はよくわたしのクラスに遊びに来るようになった。わたしに直接話しかけることはなく、クラスにいる他の友達と適当に話して帰っていく日々だった。まさかこんな形で、立場が逆転するとは…と複雑な心境だったのを覚えている。

そしてある日の昼休み、いつものように彼とその人がわたしのクラスに来たのだが、その日は様子が違った。

彼の後押しを受けて、その人がわたしに話しかけてきたのだ。その時の光景は、今でも鮮明に覚えている。当時、わたしのクラスでは毎回昼休みに遊びに来る2人がかなり噂になっていて、一体誰を目当てに来ているんだと話題だった。だから、その人が真っ直ぐわたしの方へ歩いて来た時、わたしの周りにいた友達は一斉に離れ、クラス中の視線が私たちに集まった。
まさかここで告白でもするのか?!という、謎の張り詰めた空気が流れていた。

その場で告白された、なんてことはなく、その人とは他愛のない会話を少しだけ交わして、その日は帰って行った。

2人が去った後の教室で、友達からの質問責めに合いながら、わたしはその人の後ろに見えた彼のことを思い出していた。
友達が好きな子とうまくいけばいいな、という期待と好奇心に満ちた表情だった。

わたしはその日、静かに彼への気持ちを消すことを決めた。

それから数日後、改めてその人から告白されて、彼へのどうにもならない気持ちを抱えていたわたしは付き合うことにした。

その人のことが好きだったわけでなく、ただ完璧に彼への気持ちを消し去りたいという気持ちによるものだったので、本当に失礼なことをしたと思う。

結局その人とはうまくいかず、1年間だけ付き合った後、高校3年の冬にお別れした。

彼と彼女はその後、高校を卒業しても付き合っていた。しかし彼は浪人し、彼女は県外の大学に進学したため、徐々にうまくいかなくなり、大学在学中に別れてしまったと聞いた。

思い返すと、なかなか甘酸っぱい青春を過ごしていたなと感じる。今となっては良い思い出だ。

ただ、この時のわたしはまだ、恋に恋していただけだったのかもしれない。

誰かに心から恋をして、その人がいるだけで幸せを感じ、うまくいかずに胸が張り裂けそうになって泣き、身体に触れ合って温もりを愛おしく思い、心が恋から愛に変わる経験をするのは、大学で出会い今もお付き合いをしている大切な恋人とだったから。

だが、もちろん数々の恋の経験を経たからこそ、この高校時代の恋があったからこそ、わたしは今の恋人を大切に思えている。

切ない思い出、楽しい思い出、当時のわたしに全てをくれたあの恋に、そっと心で感謝しながら、今日も恋人と手を繋ごう。

#あの恋 #ゆるnote #エッセイ

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