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ポロックのこと~大人の学びなおし「絵画のノイズ」

 大人の学びなおしの講座のことは前にも書きました。「ナゴヤ イノベーターズ ガレージ」で12月1日に行われた3回目のテーマは、絵画のノイズ。聞き慣れない言葉でした。講師は愛知県立芸術大学の白河宗利准教授です。
 レオナルド・ダ・ヴィンチのモナリザなど数々の名画も、時を経て漆喰から絵の具が剥がれていきます。こうした「ノイズ」もありますが、わかりやすかったのは、画家が意図して絵画表現のなかにノイズ性を出す技法でした。
 なかでも米国の抽象表現主義の画家、ジャクソン・ポロック(1912~1956年)は秀逸です。床に置いたキャンバスに絵具を直接たらしていくドリッピングという技法は、イーゼルに垂直にキャンバスを立てる手法とはまったく異なっていました。
 2011年11月から12年1月まで愛知県美術館で「生誕100年 ジャクソン・ポロック展」が開かれました。会場には、ポロックが実際に使っていたアトリエの実物大モデルが再現されました(表紙写真は愛知県美術館提供、下は2012年1月、aratamakimihide撮影)。飛び散った絵の具のしぶきや線、画家の足跡が織りなすカラフルな床のうえに立つことができました。筆者もポロックのアトリエにいるような錯覚を楽しんだものでした。


 この展覧会を企画したのは、学芸員の大島徹也さんでした。今は多摩美術大学准教授です。電話で話を伺うことができました。大島さんは自らポロックのアトリエを実測して、展示室に再現しました。難解な抽象画を予備知識のない来場者にどう見せたらよいのか。その答えが、制作中のポロックを撮影した貴重な映像を流す「百聞は一見にしかず」です。さらに入場者が原寸大のポロックの制作現場に入ることで、床に置いたキャンバスの見え方、その周りを動き回ったときの身体感覚、空間感覚までも追体験してもらえるように考えたそうです。大島さんは「百見は一体感にしかず」と表現しています。
 当時、ポロックについて、名古屋市に本社を置く会社社長にインタビューしたことを思い出しました。彼はニューヨーク勤務のときに近代美術館でポロックの絵を見て衝撃を受けたと言います。記事には、愛知県美術館でポロックの若い頃から晩年までの作品を鑑賞できたことで、「作風の変化がよく分かった」と再会を喜んだことが載っています。
 ポロックのような抽象表現には、パリのルーブル美術館でモナリザをじっと見ているのとは別の楽しみがあります。講義では、汚れを効果的に使ったり、絵を切り裂くという禁じ手であったり、画家たちの斬新な技法の数々にも驚かされました。
 今回の学びなおしでは、アートの現物を見ることの重み、そして楽しさをあらためて教えられた気がします。
 大人の学びなおしのシリーズは、尾張藩奥医師の大田常庵日記、考古学のデジタル化と古窯の復元焼成のコラムも掲載中です。
(2020年12月9日)
 

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