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パノラマホテル発車~名古屋の電車や眺望売りに

 ホテルの客室に入ると、「パノラマDX」のヘッドマークが出迎えてくれました。2005年に運転を終えた名古屋鉄道の人気電車、パンラマDX(デラックス)8802編成を、そのまま客室に移したかのようです。パノラマDXは観光特急用に登場した車両で、先頭車両に展望席があるのが特徴でした。
 この客室は、名鉄グランドホテル(名古屋市)が4月5日から始めた「名鉄電車ルーム8802」です。13階の部屋の窓際には、パノラマDXで実際に使われていたリクライニングシートが置かれています。見下ろすと、JR東海の東海道新幹線と在来線、名古屋臨海高速鉄道のあおなみ線が見えます。

 さらに名鉄の運転士が実際に教習で使用していた運転シミュレーターから取り外した模擬運転台があり、制御弁ブレーキを操作することができました。目の前の画面には、岐阜駅から名古屋駅など路線を選んで、実際の走行動画を流して、運転席にいるかのような臨場感を味わうこともできるのです。

 室内の備品は、2020年12月に閉館した名鉄資料館から借りた本物ばかりです。チェックインすると、名鉄電車の車掌が使っていた鞄を渡されますが、このなかにルームキーや持ち帰りできる宿泊記念オリジナル硬券、コースターが入っています。さらに4月25日までに宿泊すると、本物の電車の吊革を一部屋につき1本プレゼントしてくれます。料金は税・サービス料込みで1泊1万6000円(1室2名利用で1人分)。鉄道ファンやファミリーに人気で、早くも大型連休の予約も入っているようです。
 ホテルの「トレインビュー」の試みは、コロナ禍の前も注目されてきました。

(写真は、ストリングスホテル名古屋提供)
 名古屋駅南にあるストリングスホテル名古屋の5階客室を2019年3月、取材しました。新幹線やJR東海道線、中央線関西線、近鉄、あおなみ線の旅客3社6路線を間近に見ることができました。一方、近くの名古屋プリンスホテルスカイタワー(31~36階)からは、4社7路線の電車がまるで模型のように見えたのが、好対照でした。
 ホテル事業は、鉄道と相性がいいのです。JRや私鉄は系列のホテルを持ち、立地を生かしたステーションホテルや観光地でリゾートホテルを展開しています。外国旅行者が激減しているなかで、もう一度、鉄道とホテルの連携が見直されてくると予想しています。
 思い出したことを書いておきます。ひとつは、カレーチェーン店の創業者と東京の老舗ホテルの社長の話です。当時、創業者は老舗ホテルでパーティーを開きました。後日、ホテルの社長がパーティーの写真をアルバムにして愛知県一宮市の本社を訪れたそうです。創業者は、わざわざアルバムを届けてくれたホテル側の厚意に感激したと話していました。サービス業の頂点に立つホテルの接客の基本として、いまも思い出します。
 電車ルームも、トレインビューのアイデアも、お客さんに喜ばれる接客の原点に戻っているようです。
 もうひとつは、コロナ禍の前にANAクラウンプラザホテルグランコート名古屋が、屋上の360度のパノラマを生かして、結婚式の前撮りサービスを始めたときのことです。2019年9月、案内された屋上に着いたそのとき、遠くを走り抜けるドクターイエローの姿を見たのです。「サプライズ」も大事なサービスのひとつです。(写真下)

(2021年4月13日)
※ワシントンホテル支配人だった秋田美津子さんから1993年にいただいた著書「接客の極意」「接客の達人」「接客の核心」(主婦と生活社)のなかから、「接客とは、技術ではないのです」など参考にしました。          

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