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第10回カーデザインコンテスト~車いす製造の先進地・東海に学ぶ

 自動車メーカーや研究者らで組織する公益社団法人自動車技術会主催の「第10回カーデザインコンテスト」の中学生の部で、長野県松本市の鈴木一冬さん(松本市立旭町中3年=当時)が受賞しました。

 今回の応募テーマは「10年後の暮らしを楽しくする乗り物」。全国から中学生の部168件、高校生の部264件の応募があり、鈴木さんは工学的な工夫に優れた作品として、上位3人に入るダビンチ賞に選ばれました。

 受賞作品はunison(ユニゾン)=イラスト、自動車技術会提供=です。難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の方が視覚操作で運転できるEVスポーツカーで、「車と調和し、自由をつかむ」というコンセプトです。意思伝達装置が付いているストレッチャーごとユニゾンに乗り込み、ALS患者の方がパネルに映し出される景色を見ながら、自分の意思で運転できるという車です。「自動運転技術でアシストして安全にドライブを楽しんでもらえたら」と願ってのデザイン画でした。

 このアイデアが浮かんだきっかけについて鈴木さんは、東京オリンピック・パラリンピックの次回開催地、パリ市との引き継ぎセレモニーでALS患者の方が参加しているのをテレビで観ていて着想したといいます。

 鈴木さんは4月から松本第一高等学校に進学しています。将来はカーデザイナーを目指し、ユニゾンのような自由に動くことができる車を作りたいと希望しています。

 中学生の部のカーデザイン大賞は矢野光佑さん(川崎市立南菅中学校2年)、カーデザイン賞は鵜殿正基さん(千葉市立高洲中学校3年)=いずれも受賞当時=でした。

 パラリンピックで思い出しました。2012年正月連載企画で東海地域の福祉・ヘルスケアなど新たな成長産業の取材です。

 取材した業界大手の日進医療器(北名古屋市)と松永製作所(岐阜県養老町)からは、「クルマ」づくりへの思いを学ぶことができました。

 日進医療器の社長は「車いすは単なる乗り物ではありません。足の代わりと思って作っています」と語っていました。松永製作所の社長は「車いすはオーダーメイドですから、一般の工業製品とは違います。故障すれば修理に時間がかかり生活に支障が出ます。過剰と言える品質と使い方を丁寧に説明できる販売店の態勢を整えています」と話していたのが印象的でした。

 使う人の身になって作っていく。1964年の東京オリンピック・パラリンピックを観戦した先代社長たちが車いす競技に感動し、積み重ねてきたモノづくりの原点です。

 ALS患者さんが自由に安全に動かすことができるクルマも、本来なら自動車メーカーからどんどん提案されても良いコンセプトでしょう。いつの日にか、だれもが移動することができ、私のような高齢者が免許証を返上しなくてもいいような「暮らしを楽しくする乗り物」を待ち望んでいます。

(2022年4月15日)

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