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「四季折々の情景」~特色生かしたヤマザキマザック美術館の展覧会

 名古屋市東区のヤマザキマザック美術館で2月27日まで「四季折々の情景 美術館に息づく小さな自然たち」が開かれています。
 「季節と共に移り変わる花々、鳥のさえずり、虫の音、小動物の気配…。日本の四季は変化に富んでいます。そして、その『日本の四季』を五七五の十七文字で鮮やかに切り取る俳句の世界。この展覧会では、現代作家9名(組)の作品を美術館所蔵のアール・ヌーヴォーのガラスや家具と共に展示し、四季と俳句を軸に広がる自然の情景を展示室に再現します」
 企画の主旨そのままに会場を巡ると、四季を感じさせる多彩な作品群に出会います。
 「うまそうな 雪がふうわり ふわりかな」(小林一茶)
 いまにも動き出しそうなキタキツネ「冬の聲」(2017年)は、白い壁の前に置かれた本多絵美子さんの木彫です。
 「夏草や 兵どもが 夢の跡」(松尾芭蕉)
 会場を進んでいくと、初夏の藤の花がデザインされたルイ・マジョレルの寝室用家具セットや、「蜻蛉のテーブル」をはじめとするエミール・ガレがデザインした家具群、秋の実「ナナカマド」がデザインされたポール・アレクサンドル・デュマのダイニングルームが展示された空間が広がります。
 デュマの陳列棚には、本多さんの木彫作品が違和感なく納まっていました。どんぐりを抱えたリスを描いた「貯蓄」(2018年)は冬の訪れを前にした自然界の営みが伝わってきます。
 土居陽子さんのボロシリケイトガラスで産み出された「スノー・ドロップ」(2020年)などガラス作品にも目を奪われます。まるでレース編みを思わせる繊細な細工です。

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(2021年10月29日の内覧会で撮影)

 ヤマザキマザック美術館は2010年に開館。母体であるヤマザキマザック株式会社(愛知県大口町)は、1919年に創業し、航空機や自動車、携帯電話など様々な製品の加工に必要な工作機械の大手メーカーです。初代館長は同社を世界的な工作機械メーカーに育てた山崎照幸氏。美術工芸品を「優れた感性の結晶で、工作機械と同様に高度な技術とセンスが融合された世界」と表現していたそうです。経済記者当時から素晴らしいコレクションを持っていると聞いていましたが、実際に展覧会を観るたびに愛好家の域を超えた展示品に驚かされています。
 なにより展示室に「調度品」のように置かれた家具類やガラス作品を生かした企画展は他の美術館にはない特長です。
 2017年の「もっと知りたい名画の世界 よそおいの200年」では、17世紀後半から20世紀初頭に描かれた絵画と当時のヘアスタイルやファッションと対比した展覧会でした。

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(2017年4月17日の内覧会で撮影)
 2018年の「尾州徳川の花相撲」は、江戸時代に花開いた世界でもまれな園芸文化にスポットをあてていました。エミール・ガレの「朝顔文ランプ」など花々に合わせて所蔵品を展示する演出もありました。

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(2018年4月20日の内覧会で撮影)
 今回の展覧会の中で好きな作品の一つは、元木貴信さんの吹きガラスのボトルに元木庸子さんが立体的な彫刻を施した「おいしい時間」(2021年)です。冬を越えようとするリスがエナメル彩のボトルから、いまにも飛び出して来そうです。

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(2021年10月29日の内覧会で撮影)
 「野に出でて 写生する春と なりにけり」(正岡子規)
 人間もそろそろ、いつものような春を迎えたいものです。
(2022年1月31日)

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