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スクラップという言葉の響き アーティストのたくらみを探す

 新聞記者だったので、スクラップという語感にひかれます。ヤマザキマザック美術館(名古屋市東区)で、富田菜摘スクラップ・ワールド展が始まりました。
 スクラップ(scrap)を明鏡国語辞典で調べてみると、二つの意味がありました。ひとつは「新聞・雑誌などから必要な記事を切り抜くこと。また、その切り抜き」です。もう一つが「金属の切りくず。くず鉄。また、金属製品の廃品」です。「廃車をスクラップにする」という引用がありますが、富田さんの作品は、スクラップから車を作るといえるでしょうか。
 会場の入り口で出迎えてくれたのは、ウミイグアナの「鉄兵」(2004年)です。投棄されていた廃材を組み合わせた体長2・73メートルの造形は、今にも動き出しそうな生命力を感じさせます。作者17歳、高校3年生の時の作品と聞いて驚きました。
 その後、多摩美術大学で創作活動を本格化させます。卒業制作で初めて人物像を作りました。紙粘土や発砲スチロールの原型の上に新聞や雑誌など古紙を張り重ね、等身大の様々なヒトの登場です。「メタボなおじさん、鈴木虎之介」は、ズボンに「メタボにならない脳のつくり方」という古新聞から切り抜いた文字が貼られています。
 美術館の吉村有子学芸員によると、富田さんは絵画学科にもかかわらずスクラップの造形ばかりを制作していたそうです。それでも首席卒業です。
 2015年から恐竜づくりも始めました。大人の背丈ほどあるティラノサウルスのティラ(2019年)は、胴体や足に金属製のゴミ箱や扇風機のカバーが使われています。ゲームのコントローラーが手に、受話器が足に。吉村さんは「廃材は、その場所、その位置にぴったりと符合し、ティラは今にも動き出しそうです」と解説していました。
 ふと岐阜県池田町で彫刻家の長澤知明さんが開設した極小美術館を思い出しました。2010年6月、多摩美大教授で彫刻家の鈴木久雄さんの作品を取材しました。鍛造ステンレス鋼材5本を組み上げた高さ3・9メートルの「散距離」。鈴木さんは「3D映像ではなく、現実の彫刻と向き合って距離というものを感じてほしい」と話しました。
 コロナ禍ですが、対策をしたうえで作品に相対できる美術館の距離感、迫力がたまりません。
 廃材のヘルメットが羊の「舞子」(2014年)のお尻になったり、曲がったスプーンがメガネザル「もん太」(2017年)の足になったりと、製品寿命を超えて新しい活躍の場を与えられた77点の作品群は、どれも生き生きとしています。
 ウミイグアナのタイトルは、富田さんが見ていた漫画「おれは鉄兵」の主人公から名付けられました。鉄兵は埋蔵金の発掘を目指すのですが、展示会場にはスクラップを宝の山に変えたアーティストのたくらみが埋まっています。さて、入場者は何を掘り当てるのでしょうか?
 会期は2021年3月14日まで。内覧会で撮影した写真(©aratamakimihide)は、noteの写真集に別途掲載しています。
(2020年11月19日)

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