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素敵な大人

「みんな必死で見栄張って平気なフリしてるもんよ」

この言葉をくださったのはお客様

いつも元気でキラキラとしている50代半ばの女性
その方がいると明るい雰囲気が広がる。

当時、私は20代前半。


Aさんとの出会い

出会いは初めて働き出したアパレルのショップ

Aさんは時々きてくださるお客様
新人の私が戸惑いながら接客をしていると

「胸が大きくてこういった可愛い服も着てみたいけど
 なかなか合うものがないの」
そうおっしゃった。

その時に「着たい」という思うがあるのに
お気に召していただけるものがなかったことが心残りでずっと考えていた。


ある日、同じコンプレックスを持った方がご来店し
「どうしても着たい!
 絶対着れるものを探す!お姉さん手伝って!」

絶対見つけよう!と2人で決意した。

その方がAさんと同じことをおっしゃった
・首元はある程度あきがある
・伸びる素材
・柄やデザインで誤魔化す
・胸下からストレートに落ちるよりもある程度フィットしている方が
・ラインが綺麗に見える
あと秘技 無理やり着る!

そのお客様と試着を繰り返してた

首周りに空きがあって
横が伸縮する素材で
縦にデザインがあり伸びてもデザインの崩れないもの
広がりすぎずある程度のフィット感がありシルエットの出るもの

これだ!という商品があり
「いい!可愛いし着れる♪」

お買い上げいただき喜んで帰っていかれた

この商品なら
Aさんにもお気に召していただけるかもしれない!

在庫を気にしながら待っていると
なんとその日の夜にタイミングよくご来店されたのです!


顧客様になったきっかけ

ご来店したAさん笑顔で迎え
「Aさんにお気に召していただけそうな商品がありました!」
とお伝えすると

「え!あなたあれからずっと考えてくれていたの!?
 ありがとう!嬉しいな。どんなお洋服?」

これなのですがと差し出した洋服をみて

「可愛い♡着れるかな。
 試着してみるね」

いきなり試着室の扉が開いて
「着れた!シルエットも綺麗じゃない?
 胸元も気にならない!
この店に商品が着れて嬉しい!」

何よりも、私に似合う服をあれからずっと考えてくれてたことが1番嬉しい。ありがとう。

それからAさんは私の顧客さんになった。


数年後 退職を決意


私が退社を決め、やってきた最終出勤日勤務。
終業時間になり店を出ようとしたタイミングでAさんがご来店された。

「あー会えてよかった!
 実は事務所をたたむ事になってね。
 もうこっちに出てくることもなくなるから
 最後にあなたの顔を見たいなと思って。ほんまよかった!」

Aさんは数ヶ月に一度ご来店くださる正直もうAさんには会えないと思っていた。

事情を話し今までの感謝をお伝えした。

『もしよければお茶しない?今日、事務所の鍵を返すから最後にゆっくりそこでお茶するつもりだったのよ』

「そんな大切な時間にお邪魔してもいいのですか?」
「いいのよ1人は寂しいなと思っていたから。このあと時間さえよければ」

プチデート

お誘いを受けて2人でデザートを探しに百貨店へ出かけた

クッキー・ケーキなど眺めているとAさんが
「これ美味しそうじゃない?」と目がキラキラさせた。
いつもまるで少女のよな笑顔を見せてくれる。
淡いオレンジがつるんとしてかわいいマンゴープリンだった。

「いいですね!美味しそう!」

「私マンゴー好きやねん♡ 
 でも他もあるし今決めなくてもいいよ?」

「私もマンゴー好きです!これがいいです!」
正直は子どもの頃、果物を食べすぎてあまり得意じゃなかった。
それでもAさんの喜ぶ姿を見ていたくて好きだと答えた。


事務所でお茶

2人でAさんの事務所に入った。そこは大阪の一等地のビルの一室。

『この場所で夕陽を眺めながらお茶するのが好きだったのよ。だから最後にもう一度この時間に来たかったの。』

過ごしていた日々を思い返していらっしゃるのかな?
涙ぐむAさんを見ないようにした。

「私に子供がいたら、あなたくらいの年齢かな?
 あなたみたいに育ってくれてたらいいな。
 元気にしてるかなってそんなことを思って会いに行ってたの。」

だからいつも私に温かな眼差しをくれていた理由がわかった。

子どもが欲しかった時の事などAさんについて話してくださった。

そして冒頭の
『みんな必死で見栄張って平気なフリしてるもんよ』という言葉につながる


「私がいつも大きなキャリーケースをひいて歩いてるでしょ? 
 何が入ってると思う?」

それは大きくてハイブランドの高級そうなキャリーバック。

「お仕事の荷物や商品ですか?」
販売業を営まれていると伺っていたので、そう思った。

微笑みながら彼女は
「実はなんも入ってへんねん! 今日だけじゃないよ! 
   いつも空っぽ。やのにこんな大きなカバンひいて歩いてるねん!」

私は言葉よりも顔で反応した
まさか中身が空っぽだったとは!

「びっくりするやろ?わざわざこんな大きなもの持って〜」
そう言って笑った。

彼女といえばそのキャリーケース
“あっ、あの方ね!”と、話が通じるほどトレードマークになっていた

「なんで空っぽやのに
 わざわざ持ち歩いているかわかる?」

そう尋ねられて
「後から荷物を入れるかもしれないからですか?」
と答えた

そうやんな、わからんよね!と言わんばかりに頷いて

「見栄はるために持ってんねん!
 なめられへんように。」

確かに…
お金持ちなんだという印象を受けるし
何者なんだろうと一目置く存在になる。

「その見えを張った分
 頑張らないと!って思うねん。」

きっと自分を鼓舞するスイッチなんだ。

みんな必死で見栄張って平気なフリしてるもんよ

優しく笑み 今までよりも
ゆっくりと穏やかにこうおっしゃった。

「もしもの話やで?今、もしくはこれから先に 
   あなたが自分に自信を無くして私なんてって思う事があったら。
   他人と比べてしまう時があったらその時に思い出して欲しくて。」

「周りがすごく見えて不安になることとかあるけど。   
 人って意外と必死に見せたい自分を見せているだけで、
 みんな不安なんやって。 見栄張って頑張ってる。」

「みんな必死で見栄張って平気なフリしてるもんよ。
 だから誰もあなたを笑ったりしないで、応援してくれると思う。
 頑張ったことのある人は頑張っている人の気持ちがわかるから。」

きっと私が心身ともに疲れていることを感じ取っている

だからもう会うことのない私のこれからの人生を思い
ご自身の持っているものを
惜しみなく与えてくださっているのだと思った

深く事情を伺うこともせずに


とても大切な思い出です
私の理想の大人像

目の前の人のために
自分の持っているものをさりげなく贈る


あの日のことは今も思い出します


Aさんがくれた言葉は私を何度も励ましてくれている。
出会ってくれてありがとうございました。














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