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TOP interview vol.8

10年後の大野を考える

人口減少や高齢化、空き家問題など、まちなかの景色はどんどんと老いていく。
不安に駆られて考えれば考えるほどブクブクと潜ってしまい、思考が停止しかける。
遠くない未来にやってくる地域の問題を業界トップの方々はどう見ているのか?
そんなお話をお聞きする企画です。

第8回は、第6回に引き続き農業のお話。
お話を聞かせてもらったのは、今年から専業農家となった純ちゃん農園さん。

取材をする中で、色々な人が純ちゃん農園の周りにいるのを感じました。

畑作業のちょっとしたお手伝いに来てくれる人。
イベントで定期的に純ちゃんの野菜やお米を仕入れている人。
「一緒にやりませんか?」と企画を持ってくる人。

それぞれの関わり方で周りにいて、農園のファンが増えることやサポートにもつながっている。

農業が抱える課題は、農業を営む個人や1つの会社だけでは乗り越えていくのが難しい。純ちゃん農園のような形で、農業の周りにさまざまな人がいることで、課題を乗り越える糸口になるのではないかと感じました。

純ちゃんと、農業と、どんなことが一緒にできるだろうか。

これからの地域づくりに興味がある人みんなに読んでほしいです。

企画・編集:荒島旅舎 桑原圭 / 横町編集部 三浦紋人 / 地域おこし協力隊 山本響

Interview 8

純ちゃん農園
代表 牧野純也さん(24歳)

※2023年8月現在

文:山本響 写真:桑原圭

>4歳から農業に触れる

「純ちゃん農園」を営む牧野さん。
大野市の中野という地域でナス、ネギや米などを栽培している。
地域の人は彼を「純ちゃん」と呼んでいる。

純ちゃんが農業に関わるようになったのは、なんと4歳のころから。
農業をしていた祖父の姿が楽しそうに見え、作業のお手伝いを始めた。

しかし、純ちゃんが10歳の頃祖父が事故に遭った。
農業をこれまでのように続けていくことが難しくなった。

「いろいろな話があがった。父親は建設業だったから、誰かに田んぼを預けるとかってそんな話も。
でも、僕じいちゃんが好きやったし。自分が主体で作り始めた。」

そこから、祖父が管理していた畑や田んぼを純ちゃんが主体で行うように。
どの野菜を、いつ、どれくらい植えるのか。
それを10歳から考え、実践していた純ちゃん。

中学からは朝市で販売のお手伝いなども行うようになった。
「作る」のその先、「売る」も間近で見て、学んでいた。

現在も祖父の使っていた作業小屋などを引き継いで使っている

>純ちゃん農園がスタート

高校を卒業後は農業を学びに県外の大学へ進学。
消費者の視点を学ぶことが多かったそう。

「作る人と食べる人の関係性を考え直したい」
学ぶ中で、食べてくれる人に農業のことをもっと知ってもらいたいと感じたそうだ。この課題感は今の純ちゃん農園の活動にもつながっている。

学生の時から、大野で専業として農業をやろうと考えていた純ちゃん。
ここだというタイミングを感じ、2023年「純ちゃん農園」がついにスタート。
これまで家族でやっていたものを継承しながら、新しく純ちゃんの生業としての農業が始まった。

専業農家になるということは、農業で生計を立てるということ。
専業だからこそ、向き合うべき課題も見えてきた。

例えば、「繁忙期の人手不足」。他にも、「冬の収入源がない」。これは農業を生業と見たときの大きなハードルのひとつだと話してくれた。

そして、「販路をどう増やすか」
求めている人たちにどうやって届けるのか。
販路の課題は、学生時代の課題感にもつながる部分がある。

この販路の課題について、詳しく純ちゃんに聞いてみたい。

>販路を拓く

野菜やお米の主な売り方は、市場へ出す市場に出さないで直売するの2種類。

市場に出すと、一気に沢山出荷することができる。
例えば、100本のネギを同じ場所に一気に出荷するのと、10本ずつ10ヶ所に出荷するのとでは手間や時間が変わる。

その分、市場に出す野菜の規格や販売価格は自分達では決められない。
そして、買い手にどんな人たちがいるかは純ちゃんからは見えない。

システム化されていて効率的に販売できる分、一人で変えられる世界じゃないのが市場だ。

一方で、直売は人と人とのやりとり。特に個人やお店への販売はお互いの顔が見えながらやり取りができる。
また、市場に出荷する時のようなサイズや傷の規定がなく、価格も純ちゃんが設定できる。
しかし、市場のように、一ヶ所へ大量の出荷ができない。また、市内の直売所は日によって売れ残ってしまうこともある。

2つの売り方には、メリットもデメリットもある。規模や栽培している作物によって、売り方の主軸をどちらに置くかは農園によっても違うそうだ。

「うちでは、直売を軸に置きたい。」
規模や野菜中心の販売であることも直売を軸にしたい理由の1つ。
それだけでなく、「作る人と食べる人の関係性を考え直したい」という学生時代からの課題感と思いが純ちゃんの中にはある。

これまでも、純ちゃん農園の昔からのファンや、応援してくれる人達の存在によって、市内で少しずつ買ってくれる人が増えていた。
だからこそ市外や県外にももっと知ってもらいたい。

市外の直売所では、地域的制限があるため受け入れ先がなかなかないのだそう。
純ちゃんはワークショップやふるさと納税など、色々な手段で知ってもらう糸口を探っている。

直売の枠を増やすための糸口をどう作っていくか。
それが専業農家として見たときの大きな課題の1つだ。

純ちゃんが需要がありそうな珍しい品種を育てたり、いろいろ実験する畑

>純ちゃん農園の周り

販路の不足
冬の収入源がない

それだけでなく、
繁忙期の人手不足、機械の価格の高さ、豪雨による被害。

農業のことを聞けば聞くほど、変えられなそうなこと、難しいことが見えてきて、少し苦しく感じる。

でも一方で、何度か純ちゃん農園に通っていると、純ちゃんの周りには色んな人がいることも見えてきた。

畑に行くと、出勤前に定期的に草取りのお手伝いに来ている女性の方が。

市外では、イベントで純ちゃんの野菜を仕入れている同世代の料理人の方が。

友人同士の会話で、「蕎麦をみんなで栽培して蕎麦打ち会しよう!」なんて会話が生まれていた姿も見た。

畑や田んぼの管理は基本、純ちゃん一人。
でも純ちゃんの周りには人がいる。

それぞれが、それぞれの関わり方で周りにいる。
農園のファンが増えることや、ちょっとしたサポートにつながっている。
それがとても良いなと思いました。

周りに”いる”だけではない。
そこからもう一歩踏み込んで、農業へ”手をのばしている”人たちもいる。

純ちゃんの知人で、地域医療のクリニックで働く看護師の方。
これまでは、農業に興味をもち、純ちゃん農園にお手伝いとして通っていた。
今年度からは本業の業務の一環として純ちゃん農園で学ぶことになったそうだ。

なぜ医療の業務に農業?と思うかもしれない。
土に触れたり、誰かと一緒に作業することが健康へのアプローチの1つになり得る。その考えのもと生まれた、地域医療における新しい取り組みの一歩目。

一方で、純ちゃん農園にとっても、医療と交わることがプラスになる。
「農業の現実をみんなが知るっていうことが大事だと思うんですよ。」
純ちゃんはよくそう話してくれる。

医療と交わることで農業を知り、触れて、考える人が増える。
そのことが大きな価値になるのではないか。

>”手をのばす”

医療から農業へ。
違う生業を持つ人から農業へ”手をのばす”
そんな姿勢が、これからの地域に必要なのではないか。
取材を通して感じました。

農業の課題は、農業に携わる個人や会社だけでは解決できないこともきっと多い。そして他の産業にも、そういう課題があるのではないか。
各産業が交わっていくことで、それぞれの強みやつながりが各々の課題を乗り越える糸口になる。

例えば、農業における冬の生業がないという課題には、
「冬には一緒にこんな事業をやりませんか?」という提案が地域から生まれたり。私も取材しながら、
「東京のこのお店で、純ちゃんと一緒にワークショップしたい!」
とワクワクした。

純ちゃんと、農業と、どんなことが一緒にできるだろうか。
ぜひ、行って、見て、一緒に色々考えてみてほしいです。

「うちのなすは天ぷらにしたらどこにも負けん」純ちゃんがそう言って見せてくれたナス

>編集部メモ

・販路を拓く
・農業の周りにいること
・"手をのばす"

お付き合いいただきありがとうございました。
ご感想・ご意見ありましたらコメント欄によろしくお願いします。
次回もお楽しみに!


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