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秋風

 誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう。

 そんな言葉をこれから先もずっと言い続けてゆけるのだろうか。あなたの誕生日が来るたびに。


 あなたがいてくれたから、わたしは生きてこられた。あなたと出会えたから、わたしは幸せだった。ありがとう。


 共に過ごした三十年。死んでしまったあなたへの感謝の言葉を、あと何年、わたしは言い続けられるのだろう。


 夏が終わりに近づくたびに、わたしはいつも物悲しくなる。秋風が枝葉とともにこの心を枯らしてゆく。

 一つ一つの思い出も、赤茶の葉のようにぽろぽろと落ちて、朽ちて、やがて消える。一瞬は心を染めてくれる鮮やかな情景も、やがて秋風に流され方々へ散ってゆく。

 もしかすると晩秋の風は心の掃除をしてくれるものなのかもしれない。だけど、良いものも悪いものも等しく消えてゆく。さらわれてゆく。だから、秋は嫌いだ。

 テーブルに置いたスマホの画面の小さな遺影と、蝋燭のない小さなケーキ。日付が一つ変わる。


 生まれてきてくれてありがとう――。


 それ以上、言葉が続かない。思い出せることは、秋が来るたび少なくなってゆく。

      〈了〉




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