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【感想】「その可能性はすでに考えた」 奇蹟を切望する碧眼白皙の探偵

はてなブログのaboutに今年度の目標で書きました.感想2作品目です.
この本を読んで関連する2冊についても速攻で購入して読んだ.
面白い!


アタマのネジの吹っ飛んだ探偵

「喜べフーリン.ついに僕の探求が終わりを迎えたぞ.まずは僕のこの勝利宣言を聞け.この事件,謎はすべて解けた――」「これは――奇蹟だ」

この台詞,物語のどこで探偵である主人公が発した言葉と思うだろうか.
1章で主人公が依頼人から事件の内容を調査した結果である(早い!)

探偵上苙丞(うえおろじょう)は碧眼白皙の美青年であり
あらゆる知識に身に着けた天下無敵の探偵・・・のはずだが,
中国黒社会出身の姚扶琳(ヤオフーリン)から1億円以上の借金があったり,
奇蹟に対し,並々ならぬ執着心を持つキャラだ.

そんな探偵の事務所に一人の女性が依頼を持ってくるところから始まる.

依頼内容が「私が人を殺したかもしれないので,検証してください」と.
依頼人はある宗教団体の集落での唯一の生き残りである.
唯一の,というあたり察しがついていると思うが,
彼女以外全員死んでしまっている.

その惨状たるや,全員首が飛んでいたりだの,村が火事にあっているだの
いろいろあるのだが,中でも飛びぬけて奇妙なのが,
依頼人である彼女が一緒に逃げようとした男の子が
首を斬られて死んでいるのに対して彼女が発した言葉である.

「首を斬られた後,私を抱っこして祠まで運んだ(気がする)」と.

そこから調査を終えたネジの吹っ飛んだ探偵の奇蹟に対する宣言が出る.

「人知のあらゆる可能性を全て否定できれば,それはもう人知を超えた現象と言えませんか?」

正直めちゃくちゃである.
この言葉が後の2,3,4章の流れを築く.

徹頭徹尾 論理と伏線の回収

この不可思議な事件に対し,様々なキャラが登場し,
人知の及ぶ可能性の推理を展開していく.
だが,探偵は推理内容を聞き,こう切り返す.

「その可能性はすでに考えた」と.

ここで面白いのは,推理に対し,その可能性をつぶす探偵側の
反論が推理とは関係のない文中の用語やら発言が
あたかも伏線のように回収されていく.

その様子はぜひ書籍を購入して感じてもらいたい.

相手の推理の穴を突く探偵の聡明さが文書から知ることができるが,
この論理はどこからでてくるのだろうかと思った.
その根幹を知ることができたのは同著者がデビュー作として書いた
「恋と禁忌の述語論理」である


こちらも論理展開や伏線回収が清々しく,とても面白いのだが,
かなり難解である.
というのも,通常の推理小説のように探偵が事件内容を
文章で語り,動機やらアリバイやらで解くのではない.

主人公の一人である硯(すずり,癒やし系天才美人学者)は
事象や仮説すべてを述語論理で展開し,
論理学として問題を解くのだ.

正直読んでいてアタマが爆発しそうだった.

ただ,この論理的な思考を探偵として活用した場合,
上苙丞のような探偵となるのではないかと

※「恋と禁忌の述語論理」にも上苙丞が登場するが,前述した通り,彼は奇蹟に対し,並々ならぬ執念を持ち,その結果,視野狭窄となる場合がある.

知的好奇心をくすぐる用語たち

博識から出る本論とは逸れるが,この書籍ではさまざまな用語が出てくる.
フーリンが中国黒社会出身ということもあり?
拷問用語が良く出てくる(Key Wordsの中にも書いているが).
宗教に関する用語は事件に宗教団体が関わっていることからも多い.
さらには古今東西の戯曲や探偵小説といったものも登場する.

いろんなReferenceがあり,こういう背景知識を楽しめる人にはお勧めだ.

Key Words

Key Words
カプレカ数
週末予言
トレッドミル
半七捕物帳
鉄心石腸
中国水牢
テワカナソ
サロメ
坐井観天
クロコケグモ
ウビ・エスト・デウス・トゥス
珍妃の井戸
李商隠

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