【感想】「烏丸ルヴォワール」読者は二度騙される

感想3作品目です.


まずはじめに,この作品は一度大学生時代に読んだことがあります.
数年後,kindleで出版されていたので再度購入して読んだのですが・・・

騙されたと思って読んでくれ,いや読め!といいたい

人に薦めたい本を入れた本棚というものが
僕の頭にはあるのだが,
この本はその1冊と続編の1つである河原町ルヴォワールは
その本棚に確実に入っている

舞台設定

舞台は京都,主人公たちの多くは大学生であり,
京都文学によくあるうだつの上がらない京大生ではない.
頭の回転の速さはキレキレである.

さらに本作品は実在する京都と若干異なる点がある.
それは私的裁判、双龍会(そうりゅうえ)と呼ばれる舞台装置である.
双龍会は平安時代から元々貴族同士の係争を白黒つけるために行われており
火帝と呼ばれる裁判長を立て,黄龍師・青龍師(両方とも龍師)と呼ばれる
通常裁判で言う検事と弁護士による口戦が行われる.

通常裁判と書いたが,双龍会は裁判ではない.
なので罪は問われない.
しかし,京都では双龍会での判決は重く,黄昏卿と呼ばれる
京都を牛耳る存在がその判決を保証する.

感想
この双龍会での口戦がまた面白い!

各陣営はそれぞれの主張を通すため,
手を変え品を変え相手の論拠を破り,
自身の論説を押し通す.

その際,発言に対する証拠に重きを置いてはいるが,
一番重きを置いているのは,
いかに観衆(読者含む)を納得させられるかである.

また,自軍側の有利になるのであれば,
証拠ねつ造も心象操作もいとわない.

ここまで書くと,それってどうなの?と思われるかもしれないが,
戦い方は龍師によって異なる.

例えば,達也(号は發王)はその瞬間記憶能力と
合理的思考に寄り理路生前に相手を追い詰めていく派である.

一方,論語(号は白澤)はひょうひょうとしており,
一見思い付きに思われるような論説を面白おかしく展開していき,
場を荒らすタイプである.

龍師たちの戦いを全て読み終わると,
あの時のあの場面がそうか!といった
伏線回収具合が半端ないので,読んでいて爽快感がある.

まず,初っ端1章から我々は騙されている.
次に終章まで一気に駆け抜けて読んで我々はまた騙されていたことを知る.

あと個人的に面白かったのは
黄昏卿と主人公の一人である瓶賀流(号は亜鴉)の会話の中で


「其方は,どうしてこの世から不景気が去らないかと考えたことはないか?」「さあな.政府がアホなのは間違いないが・・・お抱えの経済学者が揃いも揃ってヤブなんだろう」「なるほど,余の考えに近い.では,腕のいい経済学者が何故現れない?(中略)医学生とて多くの患者に触れるというのに,経済に触れぬまま経済学者になった者の多いことよ.(中略)そもそも,パンの値段の移り変わりに鈍感でいられる者にどうやって経済が救えるのか?」

黄昏卿自体はこの問題に対し,演繹ではなく,
帰納的な方法で解決しようとしているが,それはまた作品でお楽しみ.

他の作品も読んでほしい


このシリーズは全4作品で,本作品は2作品目である.

丸太町ルヴォワール
烏丸ルヴォワール※本感想文対象
今出川ルヴォワール
河原町ルヴォワール

特にオススメは河原町ルヴォワール!
これは今作,烏丸ルヴォワールと同じように
最後のどんでん返しが待っている.


Key Words
爛柯
不滅の詩(フレデリック・ラングリッジ)

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