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【感想】「エアー2.0」完璧な市場予測で資本主義をリセットできるのか?

はてなブログのaboutに今年度の目標で書きました.
「書籍50冊読了&感想を投稿」という目標で,この記事は第一回目です.


ストーリー

ひょんなことから中谷は謎の老人と組み,日本政府に
「エアー」というシステムを提供する代理人として活動することになった.

エアーは人間の感情を数値化して,完璧な市場予測を可能にする
アルゴリズムを持ち,政府が握るビッグデータと結びつくことで、
国家の予算を潤すほどの巨額な利益をもたらすシステムだった.

代理人として活動する中谷だったが,エアーを提供する見返りとして,
福島の帰還困難地域を経済自由区として,自分たちに運営を任せるという要求を突きつけるのだった.

読みどころ

序盤:
謎の老人からの施しによる中谷の成長と自己認識


主人公の中谷は工事現場の作業員であった.
工事現場に似つかわしくない謎の老人(主人公はおっさんと呼ぶ)を
助けたことから,万馬券の当たり(5000万円!)を享受することになる.

そこからひょんなことから謎のシステム「エアー」を政府に提供する代理人として活動することになる.

おっさんから頼まれた本の整理をしている最中に,
ふと経済学の本を読み始めた中谷.
そこから乱読と耽読により自身の中にある経済観念を持つようになる.

金がすべてって言われるのが嫌なんだよ,俺は

この台詞のように中盤,終盤で中谷の行動は金よりも面白さを追求する.
このシーンの後から,中谷は時々経済について鋭い言及をするようになる.
[個人的感想]
この後のおっさんと中谷の「バカ」についての議論が好き.

だから,バカでも正しい判断ができるようなシステムを作るんだよ

はなかなかの良い台詞


エアーの仕組み
その中谷が代理人として日本政府に提供するエアーについての説明がある.
(説明自体は日本政府側の官僚が理解した内容だが概ね間違っていないと)

感情の数値化に用いているものは,世間に出ている文字情報,放映されている映像,ラジオなどの音声,(中略),アクセス数やクリック数,視聴時間,その時間帯などをすべてインプットし,それを元にあるアルゴリズムで感情を数値化する.それを金融工学とミックスすることによってほぼ完ぺきな市場予知システムを構築する(略)

簡単に言うと各メディア等の情報を用いたマルチモーダルな情報を用いた
市場予測を行っているらしい.

特に日本人は空気に支配される傾向がある.
経済学で合理的な人間の行動をモデル化していた理論と現実の乖離を
補正するために感情を記号化し,乖離させないようにしているようだ.

中谷とおっさんはこのエアーを政府にタダで提供することで,
政府の持つビッグデータと運用時に必要な電力を確保し,
配当として運用益の15%を得ようとしている.
この運用益が中盤・終盤で新しい経済圏を作るために活用されるのだ.

[個人的感想]
SFなのでアルゴリズム等に突っ込みを入れるのは無粋になるが,
感情を記号化する部分,つまり音声,文書,動画・・・を
デジタル化する部分ってどうやるのかなと思った.
今だと,Deep Learning系でConvolutionや分散表現で全部同じアーキテクチャで使用できる形にしているけど(メルカリとかで使用されている)

構造データや非構造データを一つのフォーマットで記載し,
それらの関係性の表現を自由に可能な方式があれば教えてほしい.

中盤:
運用益の活用方法
なんとかエアーを提供することに成功した中谷とおっさん.
得られた運用益を何に使用するかを考えた際に,

おまえはなにがやりたいんだ

というおっさんの言葉を思い出す.
エアーの納品が終わった後,中谷は東京への帰り道に福島に寄り,
帰宅困難区域を特別自治区に制定してほしいと官僚に頼む.

新しい福島を作るプランを公募し,そのビジネスに対し,
エアーの運用益で投資を行うことを考えたのだ.

お金があり,アイデアを思いつくと行動が早い.
第一アドという広告代理店を買収し,福島での起業を募集する広告を展開.
財団法人まほろばを作り,いいアイデアであればすぐに投資する.
(五百億,ポンッ!と)

のちのち投資してもらった人がインタビューを受けているが,

俺はこれまであちこちでプレゼンして全部断られているんです.(中略)で,その理由ときたら俺や会社に実績がないとか,コネクションが弱いとかそういうつまらない理由なんですよ.(中略)こちらの発想そのものに対する評価が欲しかったんです.実績やコネなんかよりもね.それを中谷さんは,アイディア聞いただけで出すと言ってくれて(略)

と答えている.リスクよりも面白さをとっている.
この後,中谷の投資信念が語られているが,
競馬でいうと万馬券狙いで買うというものだ.
(これは序盤で儲けたシーンを思い出させる)

[個人的感想]
もちろんこれは完全な市場予測が可能なエアーが生み出す運用益に
よって資本が担保されているのでじゃんじゃん投資ができるから
現実ではなかなか困難である.

しかし,昨今ではクラウドファンディングや
ストリーマーに対する投げ銭といった小規模ながら個人へ投資する
という活動も盛んで,それらはリスクとか見返りというよりも
面白そうだからといった感情で動いていることもある.
※最近,個人的に面白そうな人がいたのでAmazonカード送ってみたりした

経済自由区制定での策略
福島の帰宅困難区域を経済自由区に制定する際に,
事務次官が障壁となっていることをエアーを通じて知ることになる.

この事務次官がなかなかの曲者であるのだが,
おっさんの策略により事務次官と総理との間で
アンジャッシュのコントのようなやり取りが行われる.
※ここ面白かったです

また,序盤のあることから中谷が逮捕されるというトラブルが起きる.
その際も,おっさんはエアーに仕掛けてあるバックドアから
エアーを停止し,エアーを人質(人なのか?)に
政府に中谷を釈放するように脅しかけるのだ.

終盤:
経済自由区で独自貨幣「カンロ」を使った経済展開と交錯する各視点

福島の帰宅困難区域を経済自由区として制定し,様々なビジネスを呼び込むことに成功したおっさんと中谷.
その際,経済自由区では「カンロ」という独自の電子マネーを使用する.

一カンロ=一円の固定レートで消費税が20%と,
一見すると不便に見えるが,メリットが多い.
・流通した金が何に使用されるか完全に把握できる
・消費税20%だが,それ以外の所得税や住民税といった税金はなし
・現状の利益先食いの金融システムと異なり,現在流通している
 財・サービスの量(生産力)と貨幣流通量を一致させることができる
・円のインフレ,デフレに対し,余裕資金があるので経済圏に影響がない.

ただしこれらはエアーによってもたらされる運用益が莫大だから成り立つ.

既存の経済だと何かビジネスを興したいとなった時,
銀行の場合だと担保が必要となり失敗すると担保を取られてしまう.

一方,カンロ経済圏だと借金のリスクがなく,
意欲とアイディアと能力さえあれば次々と新しい付加価値を創造する
チャンスがある.

このカンロ経済圏の拡大に対し,政府が危機感を持ち,
色々と排除行動に動こうとするが・・・
とエンディングについてはご自身で読んでもらった方がいい.

[個人的感想]
これが実現したら,本当の意味で意欲と能力のある人間がもっと活躍できる社会になるだろうなと.
これは上記でも書いたようにエアーがあってのもの.
実際にエアーがあった際に,この経済圏を作ろうという人がいるのか?.
というのもエアーの運用益で満足して好き勝手遊ぶ人が多いのでは
(多分僕もそうです)

Key Words&Reference Books

Key Words
疎外論
マルクス
シニョレッジ(通貨発行益)
キャリートレード
信用創造
中央銀行制度
マネタリーベース
仮想通貨

Reference Books

スティグリッツ入門経済学
現代経済学の数学基礎(上巻)
これからの「正義」の話をしよう
代表的日本人

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