「息子のボーイフレンド」を読んでーその笑顔の先には
どこにいてもいいから生きていて欲しい。
笑って日々を過ごしていて欲しい。
誰かと一緒でも、もしくは一人でいたとしても。
いつでも味方でありたいと願っている。
親として。親だから。
二人の笑顔
表紙がかわいい。大好きな丹治陽子さんの絵。
イマドキの男の子二人が恋人つなぎして、かるく微笑みながら立っている。自然体の様子から一目でいい関係にあることがわかる。
けれども、本人たちはいい関係でも、周りとはどうなのだろう。
タイトル「息子のボーイフレンド」からして親との関係が書かれているのはわかるが、果たして親とも笑っていられる関係だろうか。
誰もが当事者だということ
このお話は、各章が登場人物それぞれの視点から書かれている。
主人公といえば全員が主人公といえるだろう。
高校2年生の聖将。その母莉緒、父稲男。母の友人優美。
そしてボーイフレンドの大学2年生雄哉。
聖将と雄哉はまさにLGBTQの"当事者"だ。
けれども本当は、誰もが当事者で、どんなことも自分の問題なのだ。
それぞれの立場からの話を読んで、改めてそう思った。
母親として
私自身はやはり母親である莉緒目線がしっくりくる。彼女の行動は全然大人じゃない。もちろん普段は年齢(40歳)なりの行動をするのだろうが、ことこの件に関しては支離滅裂な対応になる。
莉緒と優美の経歴がまったく他人事に見えなかった(もっとも私は同人誌活動はしていないし、もっとずっと大人しく一人密かに愛でていたが)。
BLを好きな方なら思い当たる描写があちらこちらにあり、つい出てくる妄想には毎回笑ってしまった。
私には息子はいないのでまだ笑って読んでいられたけれど、息子と母親の関係は複雑だと思う。子供であって恋人でもあるような。
聖将も雄哉も恋に落ちていく様子はとても初々しく、BL小説を読んでいるかのようだ。まさに、Boy Meets Boy。
聖将はカミングアウトできたことで一気に大人っぽくなった。
親に受け入れてもらえることが如何に大きいことか。
もちろんふたりとも成長するのだが、雄哉はもともとが好青年なのに対し聖将は少年が青年に、一皮むけた感がある。
莉緒の友人の優美がとてもいい
彼女のような、家族ではないけれどそれに準ずる立場の人がいると、絶妙な立ち位置で話を聞いてくれるし、話をしてくれる。
さらに腐女子という目線からか(いや彼女の個性ですね)、建前でとらえがちな見方をさらっと変えてくれる。当然彼女にも葛藤はあるのだが、きっと軽やかにこなしていくのではないか。
本音と建前
LGBTQに対する当事者意識をどうもつのか。父である稲男の反応が本音と建前の違いをあからさまにする。
稲男は勤務先で総務としてLGBTQ対応業務の担当になっている。
LGBTQ当事者である花形部署の女性が言う。
「…(杉山さんは)安全圏にいらっしゃるからこそ、熱心にご活動できるんだと…」
業務での対応と、いざ自分事として突き付けられた時の行動の違い。
葛藤と混乱はむべなるかな。
感情が大きく作用するから簡単に結論がでるはずもない。
もちろん正解があることではない。
このお話に出てくる人は皆が”いい人”だ。
とても誠実に考えて行動していると思う。
現実はこれとは違って、もっとずっと複雑で理不尽も多いだろう。
結局、自分なりの落としどころを探すしかない。よくわかる。
先の花形部署の当事者の女性は50代。LGBTQであることを悟られないようにと必死だったのだろうそれまでの過去が透けて、切なくなった。
この本を読んで一番思ったこと
LGBTQがメインテーマであるが、それでもあえてこの本は、親が子供に届けたいメッセージだと思う。
私が親として子供に望む究極のことは、
親より先に死なないで欲しい。
どこにいてもいいから生きてて欲しい。
そして、笑って日々を過ごしていて欲しい。
誰かと一緒でも、もしくは一人でいたとしても。
私はいつでもあなたの味方でありたいと願っている。
杉山家の親二人も突き詰めて考えてその結論になったのではないか。
どんなときも子供には幸せに笑っていて欲しい。
そして幸せは本人が決めること。
ちゃんとそれは届いていると思う。
表紙の二人が笑っているのは、そんな親の思いへの返答に見えるから。
テーマは重いけれど、文章はポップでリズムよくとても読みやすいです。
以前に一気に読んで、とても良かったこの本の読書感想文を募集とのことで、拙いですが思いを綴ってみました。
読んでいただいてありがとうございました。
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