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氷魚3月「それはそれは迷子センター」

わたしへの賛美も罵声もきこえないところへ
バスに揺られて
それはそれは迷子センター前で降りる
と空の色、と吸気の感触で都道府県がわかるのだが
いくら吸ってもわからなかった

家へ帰ろうと思えるほど遠くへ来たのに
足任せで歩けばからだが覚えていて
方角はあとからついてくると進むうちスイカの残額もなくなっていた
それはそれは迷子センター前は煙で混雑している
どちらへ歩こうか
帰れないとわかっていて
ここが家にもなる
うっすらした思いは煙やがて
人の姿になり人々、やあ、
街を作り始めている

できることを見つける気になりわたしは
黄色いカードを配り始めた
枕の下に使います(枕がなければ枕に)
思い出したくないことは渋滞すると運転が荒くなるし
思い出せないは幸せと紙一重
帰路いカード

まだこの世で話したいことがあって
出会う人をつかまえて僧だと思って
穴の開いたシートを隔てて空の箱のなかでわたしは僧に言った
それはそれは迷子センター
僧は経典を調べて紙をめくる音だけがしていた
アル・パチーノが出ている
マフィア映画の一節を読み始めていた


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