真っ暗登山鉄道の終点、鈍色に輝く錆びた蛇口と天井から滴る雨の掛け流し温泉

箱根の登山鉄道終点、強羅駅についた。
丁度昨日、Amazonのプライムデーセールに釣られて遂に買ったKindleが届き、新しい旅のお供と、定時上がり出来なかった会社を後に、JR神田駅から乗り継ぐこと3時間弱。
小田原からの電車には誰も乗らず、ジグザグと真っ暗な線路を進んでいく。5,6駅しかないため、丁度活字に没頭してきた所で駅員さんに「強羅駅ですよ」と声をかけられる。あっと声を上げて、頭が切り替わらずお礼を言うタイミングをのがした。強羅駅、来たことがあるような、無いような。小涌谷駅は温泉卵を食べた覚えがあるが、ここはどうだったかな、と思いつつ、街灯と民宿の光で静かに包まれた道を歩く。
泊まったのはかなり新しいホステルで、流行りのシンプルで余白のあるデザイン、朝食も美味しそうだったので予約した(駅に降り立って、コンビニや早朝やっていそうな食事処がまったく無かったというのもある)。
ホステルには温泉がついていた。着いたのがもう21時をゆうに回っていたので、夕食は小田原での乗換で買っておいたシジミの味噌汁。さっさと飲んで、温泉に向かう。
脱衣場の戸を開けると、先客でいた母娘がほとんど脱ぎ終えてこれから入るというところで、その後に続く。あけると白く濁ったお湯でテンションが上がる、個人的に白いにごり湯が一番ワクワクする。さらに、鼻を抜ける鉄の匂い、先に体を洗おうとシャワーの前に座って、蛇口やらの塊の部分が、凸凹と錆びついていることに目がいった。ただ、よくよく磨かれているのか、つやつやとしている。
嬉しくなって、オーガニックノンシリコンなシャンプーをさっさと終え、お風呂に入る。
濁っているせいで、まったく風呂の高さがわからない。ゆっくり足を入れ、段になっているのを確認して浸かる。ぬるくあたたかい。
少しして母娘はあっさりと上がっていった。一人になると、窓側の段差で浅い部分に全身を乗せ、タオルを枕に仰向けになった。

ボチャッと水面が跳ねる。天井を見上げると、たくさんの水滴がついていて、ふっと小さい頃に泊まった温泉のある民宿や、地元の銭湯を思い出した。
この水滴、新しいお風呂ではあんまり見ない気がする。お風呂の縁に、ボッと音を立て、また落ちる。
目を薄く閉じる、ボッ、バチャッ、次の滴は額の少し上にパタッと優しく落ちた、冷たい筋が耳の上を通ってゆく。
ゆるく感覚をあけた雨のような、楽しさがある。
ここでやっと、このホステルが風呂場以外を大改装したんだなと、頭に浮かんだ。蛇口の時点でぼんやりと思ってはいたが。
前はどんな宿だったんだろう、面影はこの風呂場にしかないが、古いものはやっぱり情緒的だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?