僕ら夫婦には子供がいない(1333文字)
僕ら夫婦には子供がいない。
僕には隠し子がいないし、妻にもたぶんいないんじゃないかと思う。
この先子供を作ることが絶対ないとは言い切れないけど、まあ十中八九ない。
このまま子孫を遺すことなくこの世を去るのだと思う。
僕らには親がいて、その親にもまた親がいて、その親にもそのまた親がいて……ということを考えると、長く続いた物語の最終章を生き、最終頁を書き終える……ということに「責任」みたいなものを感じなくもない。
終わりよければすべてよし、だなんて言葉もあるし、先祖代々の物語をできるだけよい形で完結させたい。
だなんて話を昨夜、妻とした。
僕「てなわけで僕らは、ながーくながーく続いた大長編の、最終頁を書き終えて、で、帰るわけだ」
妻「帰る?」
僕「ん」
妻「どこに?」
僕「神さまのとこに」
妻「神さま」
僕「そだよ」
――だなんて感じで僕は、僕の妄想を開陳したのであった。
でね、神さまに訊かれるわけだよ。物語は持参したのか? って。
僕らは頷き、僕らの物語を神さまに納める。
先祖代々の物語は美しい装丁の一冊にまとめられていてね、それは大宇宙の『なんでもライブラリー』に納本されることになってるんだ。
『なんでもライブラリー』ってなんだか『どこでもドア』みたいな名前の図書館ね、とか妻はやや核心から離れた反応をする。
ん、と聞き流しつつ僕は続ける。
ところが、だよ。神さまったら、ぎいいっ、とか大きな音をたてて椅子から立ち上がってさ、窓辺に歩んで、でもって宇宙なんて見上げながらこんなふうに言うんだ。
――どんなふうに?
物語が増えすぎた、って。
――増えすぎた?
ん。
――物語が?
ん。
――増えすぎると、どうなるの?
終わっちゃうんだって。
――何が終わるの?
宇宙が。
――ええっ!
ん。
――終わると、どうなるの?
blank.
――ブランク?
そう。blank「.」 ……と僕はピリオドを強調して繰り返す。
妻は黙る。
神さま曰く、人間シリーズは人気があるのだけど、いかんせん大長編なもんだから、かさばっちゃって、だもんで、つまんない話は収蔵できないと……
――ええっ(゜ロ゜ノ)ノ
ん。
――そんなのおかしいじゃん。だって【なんでも】ライブラリーなんでしょ?
ん。
――つまんない話は拒否するだなんて、天国の法律にひっかからないの?
んー。最近になって改変されたみたいなんだよ、天国のきまりが。
妻は黙り、深夜の空気が雪みたいに降り積もり……
――じゃ、重大じゃん。
と妻が沈黙を破る。
重大?
――責任、重大じゃん!
ん。
――つまんない終わり方にしちゃって、もしもライブラリーに入れてもらえなかったら……、代々のご先祖さまに申し訳ないんじゃん!
ん。
――もうちょっとで今年も終わるけど……、
ん。
――来年からは、つまり明日からはあたしたち……、
ん。
――めーいっぱい幸せにならなきゃ、だね!
ん? ん。
――ハッピーエンドを書ききらなきゃ、ね!
ん。そかもね、ん。ああ、そうだね!
てなわけで僕らは、来年から、つまり明日から、さらに丁寧に、大切に日々を生き、より面白く、より感動的な物語を紡いでゆきたいと思うのであります。
物語のアンカー走者として、より楽しく、より素晴らしく走り抜くことをここに誓います!
令和5年、大晦日。
あひろ(^-^ゞ りーこ(^-^ゞ
文庫本を買わせていただきます😀!