郷土紙という超ローカル新聞(連載15)この記事は記者が書いていない
【ローカル新聞らしからぬ記事】
地方新聞(県紙、郷土紙)は、地元の話題を中心に掲載しています。
全国的なニュースといえば地元に関係がある政治や経済のニュース程度。県を代表する県紙は、テレビのニュース番組で扱うようなヘッドライン的ニュースもありますが、それ以外は、基本的に地域のニュースを記事にするのが地方紙の役割です。
政治なら県政や市政がメイン。経済は、地元企業の動向と県内や地域の景況。、事件も基本的に地元のもの。それを理解した上で読んでいると、ときどきローカルな新聞らしからぬ記事が載ってていることがときどきあります。
例えば大手化粧品会社の研究者の声を引用するような紫外線対策のコラム。名前を聞いたことがないような大学教授による健康情報のインタビュー記事。国の健康指針を寄せ集めたような長生きするには何を食べるといいかというようなアドバイス。週刊誌に載っていそうな永田町情報などローカル新聞らしからぬ記事です。だいたいは、紙面の下の方や端っこの方に囲み記事の体をしてコソッと載っています。地方紙の読者なら見かけたことがある人もいるのではないでしょうか。
どうせ記事にするのなら、地元の化粧品販売店や皮膚科医の意見を取り入れた紫外線対策のほうが地方紙らしい記事です。また、読者であり広告主でもある健康食品販売店社長のインタビュー記事にすれば営業面でもプラスになります。
広告や記事広告でもないにもかかわらず、まったく地元に無関係の味気のない記事が載ることがあります。
なぜなのか。
【買い原稿でも入れておくか…】
盆と正月、そして5月の大型連休。経済面なら日曜日と月曜日。社会面なら大きな事件がなければ月曜日。市政を載せる政治面は議会休会中。記事の出稿量がが著しく減るときです。
昼、デスクが出勤してきた時点で出稿予定がスカスカのときは社内にいるヒマそうな記者(本当はヒマではないことも)に向かって「なんかいいネタないの?」と聞いてきます。
しかし、こちらのパソコンも社内のネットワークにつないでいます。記事が少ないときは、デスクの出勤前にヒマネタ(いつ掲載してもいいような速報性のない記事)を出稿予定に書き込むくらいはします。
デスクは、聞くだけムダなのを承知で叫んだセリフを引っ込めるように「しょうがない、買い原稿でも入れておくか…」とつぶやくことになります。
買い原稿というのは、記事制作会社から配信を受けた(買った)速報性のない記事です。直接やり取りする立場ではなかったので、正式な名称はわかりませんが私がいた本郷日報(仮称)では、「買い原稿」と呼んでいました。
共同通信や時事通信のような通信社が、契約している地方紙に配信するような速報性のあるニュースとは違います。
いずれにしても共通しているのは、自社の記者が書いた記事ではないということです。
デスクがパソコンの中から政治面、経済面、スポーツ面、社会面などそれぞれの面にふさわしい記事(買い原稿)を選び、行数が合いそうなものをチョイスします。
本郷日報では、企業のプレスリリースなどを代行、サポートしているPR会社から買っている記事のようでした。政治、経済、スポーツ、暮らし、記念日系の話題などさまざまな分野の記事がパックになっています。イメージ写真やイラストが付いている記事が多いので、紙面を埋めるのに重宝するようです。
買い原稿が紙面を埋めるのは、人手不足だからか記者の働きが足りないのかは一概にはいえません。本郷日報では、人が多い時期はあまり買い原稿が利用されなかったように記憶しています。よって人手不足が買い原稿掲載の要因であると強くいっておきたいと思います。
ヒマネタをつくる余裕がある体制がいちばんありがたいです。
【寄稿者多数!】
買い原稿のほかにも、新聞社には記者が書かない記事がたくさんあります。
こちらから依頼する連載コラムや小説もその一つです。
それ以外にも自ら売り込んでくる人、書かせてほしいという人もかなりいます。
新聞に原稿を書きたいという人はけっこうたくさんいます。
自らこういってしまうのはなんですが、新聞は「腐っても鯛」なのです。
いちばん多いのは、地元の郷土史家や歴史、地理の研究者、海や山、川の生物などの研究者のみなさんです。
地元の城について調べた研究結果や戦国時代頃からの堤防の護岸工事の歴史、川の水質調査結果などをまとめ、寄稿してくれます。
中には博物館の学芸員だった方のような、こちらからお願いしなければならないような専門家もいらっしゃいます。
新聞社側としても記者以外の視点がたくさんあるのはいいことです。地元で長く暮らしている人が、紙面を通じて専門知識を発表することで郷土紙の存在感を高めてくれます。
執筆者に関連して読者が増える… いや減りにくくなることも経営上のメリットにあげられます。しかも薄謝(謙遜ではなく本当に薄謝)または無料で書いてくれるのもありがたいことです。
紀行文や自由研究のような記事の寄稿もけっこうあります。「○△街道を歩く5泊6日」「川の水源から河口までのすべての橋を撮影し由来を調べた」など玉石混交です。私がいたころは、極端にひどいものを除けばかなりゆるい掲載基準でいろんな寄稿が掲載されていたように感じます。
このほかにも自分の仕事に利用しようという意図を感じられる記事も多くありました。
税理士、公認会計士、中小企業診断士などが節税対策や経費管理、社内人事システムの作り方といった専門知識を連載していることも少なくありません。
新聞に載っているコンサルタントということで営業上のメリットが出てくるからなのでしょう。
広告を出すよりも効果が高いということもあるのか、たいていの書き手は、無料で寄稿してくれます。
この分野の場合は、社長や編集局長、広告局長など経営層とのつながりが深い人が優先されているような印象です。
寄稿も校閲を通すので、すべて原稿のままというわけにはいきませんが、署名記事でもあるので、ほぼ思ったとおりに書くことができるのも寄稿者にとってうれしいのではないでしょうか。
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