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郷土紙という超ローカル新聞(連載25)少女誘拐ではない!


小学生に続き中学生に擦り寄り


この話は、私が入社して数年経ったころのできごとです。時系列としては順番を飛び越えてしまいますが豆記者に続いて触れたほうがネタの連続性があると思い、取り上げました。

初めに申し上げるまでもなく、タイトルはいささか走り気味です。対して取れていないアクセス数を微量に増加させようという姑息な手段です。小見出しは、おおむね正しいです。

中学校の授業では、職場体験のプログラムがあります。本郷日報(仮称)の発行地域に限らず、全国的にやっていることです。
生徒が自ら市内の企業に電話し、職場体験を受け入れてもらえるように交渉するそうです。
すげえな、今の中学生。

先輩たちからの引き継ぎなのか、ほぼ毎年(10年で8回程度)本郷日報にも職場体験の生徒たちがやってきます。会社としては、拒否する理由がありません。当然のように受け入れています。
こういう場面を利用し新聞に親しみを持ってもらい、将来の読者になってもらうべく中学生に擦り寄ります。小学生の新聞コンクールに続いて同じことをしています。

体験先の人気も地元ヒエラルキーが反映


職場体験では、地元の大企業が人気です。長い時間立っていて辛そうなお店関係は、毎年応募少なめです。受け入れ側の前のめりな気持ちは空回りしています。
地元経済界のヒエラルキーが中学生にも浸透しているとみていいでしょう。

特に会長が「お殿様」のような存在で、本郷日報にも清濁あわせてたくさんのお金を注ぎ込んでくださっている遠浜交通(仮称)の本社は、毎年希望者による抽選となるくらいです。
彼らもわかっているんですよね。地元で働くなら東京のいい大学を出て、遠浜交通の本社勤務だと。目端のきくというか、かわいくない生徒は、その上の遠浜ホールディングスへ職場体験に行っています。親たちが日頃から家庭内でそういうことを言っているのでしょう。特に「遠浜」や「遠交」のあとに「エンジニアリング」とか「レストランサービス」なんて文字が付く子会社、孫会社の課長さんあたりなどは。

新聞社で職場体験


この年、本郷日報に職場体験でやってきたのは2年生の男女1人ずつでした。カップル感はなかったので、たまたまだと思います。クラスも違ったようですし。
この手の担当は、基本的に編集局長です。
せっかくですから紙面を埋めるべく職場体験の様子は、記事にもします。このときは、ちょうど時間が空いていた私が担当することになりました。

昼休み明けに編集局にやってきた生徒たち。内勤者とたまたま社内に残っていた記者が拍手で迎えました。取材兼アテンド役の私が応接室へ案内します。
編集局長が、新聞社の仕事の内容、意義(あったのか笑)などを説明していました。そして取材現場に同行してもらうことにしました。
10分ほど中学生と話をした編集局長は「araioくん、あとはよろしくね」と言い残して席を立ちました。「へ?」という顔をしている私に「会議所の定例会見に連れて行ってあげてよ」
職場体験の取材は、写真1枚、40行という簡単な記事でいいとデスクにいわれていました。安請け合いしたのが運のつき。中学生2人を連れて本郷商工会議所へ行くことになりました。

誘拐なの?


入社後、3年目から農協などに加え、地元経済なども担当するようになっていた私。社会面ネタの職場体験を頼まれたのは、そういう背景がありました。騙されやすい私は、計算通りに編集局長とデスクが仕組んだ罠(?)にかかりました。

商工会議所の定例会見まであまり時間もなかったので2人の生徒を連れて出かけようとしたら、編集局長に呼び止められました。
「これ、使って」
握らされたのは、タクシーチケット2枚。
「キミの車じゃ、さすがにマズいよ」
デスクまでもが
「おまえだと会議所に行く途中で職務質問にあうぞ」と言葉を乗せてきます。

私が使っている取材車(自家用車)は、なんとか動くというレベルの車齢2ケタ、地球3周分走っている国産コンパクトカー。
新聞社から商工会議所までは車で10分かからない距離ですが、万が一、事故があったら大変です。タクシーを使うことになりました。
いやいや、事故の心配をするくらいなら内勤で簡単なタイピングくらいでいいじゃん。

商工会議所では、予想通りといいますか…
受付では「本郷日報のaraioさんが女子中学生を連れ回している。誘拐だ」と冷やかされました。
口さがない女性職員は、男子生徒と私を勝手に組み合わせて
「どっちが受け?」
と中学生に言ってはいけないことを口にします。ただ、そのときに女子生徒が口元に手を当て少し体が震えたのを私は見逃しませんでした。
思い出してみたら、この生徒と商工会議所の職員の苗字、いっしょじゃないですか。この地域では珍しい苗字なのに!

会見場に着くと、ケーブルテレビとコミュニティFMも職場体験の生徒を連れてきていました。
中学校の校長先生もあわせて、みんな知っていたんですね。ちっ!
この日の会見のネタのひとつが、中学生対象の地元企業と商工会議所主催のものづくり体験開催のお知らせでした。

この生徒たちが、のちのち新聞社をめざしたのか、東京で就職したのか、遠浜交通本社に入れたのか知りません。
少しでも新聞社業務の建前部分を知ってくれたらうれしいです。

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