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郷土紙という超ローカル新聞(連載8) ゴホッ 誤報

【そんなはずは】


入社して1カ月ちょっと。内勤のかたわらお店の取材というのも慣れてきたころでした。
報道局の庶務を担当している人からメモ書きが回ってきました。
書かれていた内容は「印刷部長のカツラがズレている」などといった80年代の中高生が授業中に回すようなおもしろ系ではありません。
「○×時計店の電話番号がまちがっていたみたいです」
ゴホッ、ゴホッ!
飲みかけのコーヒーが少しむせりました。

そんなはずはない。電話番号は何回も確認したのに。
あわてて掲載された日の新聞を机に持ってきて、パソコンの中にある提出した原稿を呼び出します。
取材時にもらったオーナーの名刺を引き出しから取り出し、突き合わせてみると…


あ。

やってしまいました。
この手の記事でやってはいけないまちがいです。
市内局番の後の番号は「3233」が正解なのに「3223」。
原稿書きをしている人ならあるあるです。


こういうときに限って、名刺のコピーを校正資料で配った校閲担当の人まで見逃してしまう。
オーナーの名刺は、タテ書きで




と漢数字で書かれています。
だからこそよく確認しなければいけなかったのですが、もうすでに原稿は提出済み、印刷された記事は配達まで完了されています。
くつがえすことはできません。

書き始めて1カ月もしないうちにやってしまいました。
さっそく訂正記事を用意します。

【訂正】○日付12面の○×時計店の電話番号は0ABC(DE)3233でした。


【謝ったら死ぬ病】


メディアは、規模の大小を問わず可能な限りまちがいを認めない傾向にあります。そして、まちがえたことを謝ることもあまりありません。まるで「謝ったら死ぬ」病にかかっているかのようです。


電話番号のまちがいのようなケアレスミスでさえ、上記のような非常に短い訂正記事です。それも紙面のいちばん下の目立たないところにこっそり載せるのが通例です。
記事もあくまで「訂正」で「おわび」ではないところも注目です。まちがいがあった元の新聞記事を読まないと、どのようにまちがえていたのかもわからないくらいです。

このレベルは「ミス」ですので訂正記事を出しますが、予測などでまちがったことを書いてしまった誤報の場合、訂正を出さないことも多いです。


例えば正式発表前に「抜く」といわれる人事のスクープ記事。郷土紙の場合だと地元の商工会議所の次期会頭(いちばん偉い人)が誰になるかというのが読者の関心ごとの一つです。ライバル紙や県紙、全国紙を向こうに回して大きく載せたのに、実際には違う人が就任した場合などは、まさにその例です。
「あれ、そんなこと言ったけ?」と何ごともなかったようにとぼけています。
一方でスクープどおりになった場合は「本紙○日既報どおり」などと必要以上にアピールすることを忘れません。

こういう姿勢も新聞離れにつながった要因の一つですよね。

【名前、年齢、電話番号】


新人のころは、誤報が出るような大きな記事を書くことはありませんが、人やお店、会社の名前、年齢、電話番号などはまちがえてはいけない部分です。追及が追求になってしまったというようなDTP時代になってから増えてきた誤変換も決してほめられたことではありませんが、固有名詞関連は、まちがえないように何度も複数の人の目を使って確認しなければいけません。


ほかにもスポーツの結果、特に勝ち負け。大会会場、イベントなどの大会の正式名称もその一つ。訃報記事、容疑者と被害者の取り違えなども絶対やってはいけないまちがいです。
残念ながら新聞は、人間がつくるもの。訂正記事の多くはこれらのまちがいばかりです。

【電話が鳴り止まない】


まちがえた先の時計屋さんには、おわびに向かい許してもらえました。広告局に協力してもらい無料広告の掲載をすることでふつうに収まりました。
一方でまちがった電話番号の相手も、新聞社とそこそこつきあいがあるところでした。こちらにおわびの電話を入れると「実は、前からよくあるんだよね、まちがえてかけてくる人」とのこと。


いつもよりまちがい電話が多いなと思っていたそうで「新聞ってそんなに効果ないと思っていたけど、電話が鳴り止まないとまではいかないけどけっこう反響あるんだね」。
このときのまちがいは、これで済みました。その後も電話番号こそまちがえなくなりましたが、半年に1回くらいは訂正記事を出してしまいました。

まちがえられた相手にとっては迷惑な話ですが、謝って済むレベルでなんとか収めることができました。


※本連載も誤変換、誤表記は特に告げることなく随時訂正していきます。


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