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自転車置き場のヒーロー

自転車置き場に自転車を預け、その日のうちに取りに戻る予定だったのに、ちょっと時間のよみを間違えてしまったばかりに、自転車置き場の営業時間内に間に合わなかった。

「あぁ~。やってしまった…」

電気が消され、真っ暗になった自転車置き場を見上げてがっくりと肩を落とす。あの最後の1杯を断るべきだったなぁ。って、間に合わなかったことをうだうだと言っても仕方がないか。明日のお昼に追加料金を持って自転車を引き取りにこよう…。

真っ暗になった自転車置き場をうしろに、とぼとぼと暗い道を歩き始める。明日の事を考えると、ため息が止まらない。はぁ。肩を落としながら歩いていると、ますます気が滅入ってきたように感じた。このままだとどんどん沈んで行ってしまう。気分を変えて目線を上げ、夜空を仰ぎ見ることにした。

「満月… に見えるけどちょっと違うか…」

長時間付けているコンタクトレンズ越しに見る月は、はっきりとした輪郭をもたずに、ぼんやりとした光の膜につつまれていた。


ー翌日ー

お昼を少し過ぎた頃。自転車を引き取る時の状況を考え、頭の上から全身にかぶさってくる憂鬱さで重い足を持ち上げながら、自転車置き場の階段を上る。

えーっと、自転車どこかなぁ…

昨日自転車を止めたあたりを探してみたけど、自転車が見つからない。おかしいなぁ。とりあえず、ぐるっと1週回ってみるか…

一番奥から自転車を探していく。並んでいる自転車を順番に眺めていくけど、自分の自転車は見つからない。おかしいなぁ。誰か間違って乗っていったとか?まさかね。そんなことを考えていると、最後の最後、受付の横に見慣れた自転車を見つけた。

見慣れた自転車?ですよね?

壁に固定されているパイプに、鎖でぐるぐる巻きにくくりつけられた赤い自転車。

何かがおかしい。

鎖でぐるぐるまきにくくりつけられているだけでもおかしいけど、おかしいのはそれだけではない。違和感を感じる原因はあと二つ。

ペダルとチェーンが外されている。


うへー。そこまでやるか?!

そこまでやられる筋合いは無いけど、1日預かりなのに当日に自転車を取りに来れなかった自分が悪い。仕方がない。とりあえず謝ってお金を払ってさっさと帰ろう。

「あのー、すみませんでした。この自転車なんですけど…」

と、受付に声をかけたこちらの説明が終わっていないにもかかわらず、受付の扉の中から汚れた白いタンクトップを来たおっさんが、今にも殴りかかってきそうな顔をしながらレンチを片手にずんずんとこちらに向かって歩いてくる。


まじかー

「お前みたいなやつがおるから!あぁ!わかってんのか?!」

「すみません。昨日来るつもりだったんですけど」

「言い訳すんな!」

「…(何言っても無駄だなぁ。もう無視しとこう…)」

至近距離でがなっているおっさんの顔から視線を少し外しつつ、怒鳴り声を無心で聞き流している横で、アルバイトのおっちゃんが自転車を直してくれていた。


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っていう夢を見た(ほんと

その後、なぜか自転車を直してくれたおっちゃんと怪物退治に行くことになったのは、ここだけの話。



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