桃伝が教えてくれたこと
ワタシはRPGが好きなんだけど、幼少期にしみついてしまったクセがいまだに抜けない。いや、別に困ってはいないんだけど。
困ってはないけど、昔おこしてしまった事件はほんの少しだけトラウマになっているかもしれない。
RPGの会話はファミコン時代から別窓で行われることが普通で、それは戦闘中でも変わらなくて。技や魔法を使うと大体は下半分のスペースを使って
○○は △△ の まほうをとなえた
とか、
○○ は □□ の わざをくりだした
などの説明が テテテテテ という音と共に画面に表示される。
そしてその後に「バシッ!!」とか、「チャキーン!」とか「テロリロリリッ」とかのカッコイイ効果音が付くのが王道のスタイルだ。
ワタシの抜けないクセというのは、その テテテテテ に合わせて技名を叫び、ドバシュッ! などの効果音に合わせてAボタンをタイミングよく叩き込むという、画面の中でキャラがジャンプするときに自分もコントローラーに引き寄せられるかのように伸びあがるのと似たような感じのクセ。
え?似てない?
まぁそう言わずに。
ゲームをするときに同じように気合を入れて叫びながら技を繰り出していた人は多いはず。むしろ多いと信じてる。なんなら技名を声に出していないだけで、心の叫びとして全員やっていると思っている。みんな、身体に染みついてるよね?
このプレイスタイルは、素敵な声の声優さんが技名を言ってくれたり、画面上ですべてを説明してくれるゲームが少なくなってきたことにより、発揮できるタイミングは昔より少なくなっている。が、ゼロではないので、まだまだ現役だ。
現役とはいえ、このスタイルでゲームをすることが少なくなってきて、ちょっと寂しい。寂しいけど、子に冷たい目で見られるリスクを考えるとトントンなのかもしれないな、とふと思えた。
大人になったな。ワタシ。
それはひとまず置いといて。
ゲームは1日1時間まで!なーんて制限が厳しかったあの頃。ワタシは桃太郎伝説(通称桃伝)を一生懸命楽しむ子供だった。
桃鉄じゃないよ。桃伝だよ。
余談だけど、桃伝へのアツイ思いを書いてみたところ6000文字オーバーだったので公表するのは諦めた。長い、長すぎる。それだけの重さを今でも持ち続けられるくらい大好きだ。
話を戻して。
若かりしあの日、ワタシはいつものように1人和室に陣取り、ブラウン管テレビに向かっていた。そしていつものように桃太郎伝説をプレイするために、カセットを差し込み電源をONにする。もちろん正座は欠かせない。
そして、親が和室から見える範囲に居ない事をしっかりと確認する。ゲーム自体には興味がないが、ゲームをしている子供には関心があるのがワタシの親である。
恋人であれば遠慮なくドスンと横に陣取り「何してるんー?」とイチャイチャしながら聞いてくるところだが、ゲームに興味のないうちの親はそんなことはしてこない。
むしろイチャつかれたらびっくりする。
そんな距離を取りたがる母は、見える範囲にいたとしてもゲーム中は同じ部屋からいなくなってしまう。それだけでなく、見える範囲から姿を消してしまうのだ。忍者のように足音一つ立てずに。
姿を消して、向こうからもこちらが見えていないはずなのに、なぜか母はゲームをしているということ自体は感知できるようだった。
感知システム。それは、2部屋程度であれば貫通可能である、まがま…おっと、仰々しいオーラを放つことにより構築されていたようだ。
そのオーラの存在に気付いたのは、いつもゲームを始めてから一定時間が過ぎると、母が部屋に姿を見せ始めることから。バタバタと普段はあまり立てない足音を響かせながら、無駄に部屋を横断する。洗濯物を持っていたり、リビングにある荷物を移動させたりと、さも「片付けは大変だわ~」と言いたげに。もちろん、画面をチラチラと意味深に確認することも忘れない。
そんな恐ろしいオーラだが、このオーラは向こうが察知するのに使えるだけではなく、こちらも向こうを捕捉するのに使えるので悪い事ばかりではない。
そんなわけで、視界入る範囲には居ないがオーラを感じ取れる今、母が在宅していることは明らかだ。
なのでワタシは声を落とし、ひっそりと桃太郎伝説を始めることにした。
桃伝でよく使ったのは「ろっかく」の技。敵に必殺の一撃を与える最強の技である。漢字で書くと「鹿角」。効果音は「チャキーン!」という強いだけでなくとんでもなくカッコイイ技である。
だけど、画面では
ももたろうは ろっかくのじゅつを
つかった!! ろっかくーん!!
と表示されるのである。ちょっとカワイイ。
他の技「いなずま(攻撃)」や「まんきんたん(万金丹・HP全回復)」も
いなずまーん!!
や
まーんきーんたーん!!
と テテテテテ という音と共に画面に表示されていく。
なので桃伝プレイ中のワタシは
「ろっかくーん!」バシッ(Aボタン)
「いなずまーん!」バシッ(Aボタン)
「まーんきーんたーん!」バシッ(Aボ以下略)
と声に出しながら嬉々としてAボタンを押す女である。
うん、楽しそう(←
あの日、ワタシは自分だけに聞こえる、ぼそぼそとした独り言の音量で遊んでいたはずだった。
初めはぶつぶつと、かつ淡々と遊んでいたはずなのに、だんだんと楽しさが抑えきれなくなりニヤニヤしはじめる。
ぶつぶつニヤニヤ。この時点でちょっとアレかもしれない。
しかし、否応なしに徐々に徐々にテンションは上がってくる。
Yes!ジャスト!完璧すぎて神!控えめに言ってもワタシ天才!
あぁ、なんて楽しいんだろう!
まーんきーんたーん!バシィッ!(Aボタン
あ、ちょっと声大きかったかも。
その時、ふと視線を感じたのでそちらに目を向けると母がサッと目をそらした。
イツカラソコニイラシタンデスカ?
心の中で問いかける。
こちらも動揺しているが、向こうも少し動揺しているようだ。
ワタシナニモミテマセンヨ
と、和室中の空気を総動員して、言葉を使わずにワタシに語りかけてきた。
この日の出来事は、ついさっき起こった事のように今でも思い出すことが出来る。
匂いが記憶にものすごく密接しているということはよく耳にするけど、空気が焼き付ける記憶というものもなかなかに侮れないらしい。
なぜならその後、母がアホな行動をしているワタシを見て、何とも言えない目を向けてくるたび、あのいたたまれない空気がどこからともなく部屋に流れ込んでくる。
そしてあの記憶を呼び起こすのだ。
(まーんきーんたーん バシィ)
それだけならともかく、子がアホな行動をしてワタシが何とも言えない目で見つめているときにもあの空気は流れ込んでくる。
(まーんきーんたーん バシィ)
今のはワタシじゃない!と心の中でいくら叫んでも、食い止めることはできない。
そして容赦なく恥ずかしい記憶を呼び戻す。一粒で二度美味しいどころの話ではない。あの空気を感じる度に、あの場所に引き戻される。ワタシはタイムリープが出来る人間だったようだ(←
しかしワタシは負けない。
今日も技を繰り出すべく、ゲームのスイッチをいそいそとONにする。あの空気を寄せつけないためにも元気よく!(懲りない
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