流されるサンダルと追いかけたワタシ
散歩をするといいアイデアが思いつくという噂を聞いたので、今日はいつも通る道ではない、このあたりでは穴場のちょっとイイ感じの散歩道を歩いてみた。
真っ赤に色付いた葉っぱが道の両端を覆うようにこんもりと積もっているその上を「さっくさっく」といい音を立てながらのんびりと歩いていると、大昔に数家族で一緒に遊びに行った「鳴き砂」の海岸をふと思い出した。
小さい頃、色々な場所へ旅行に連れて行ってもらっていたのにどこに行ったかを全く覚えていないので、大人になってから「連れて行くのに使ったお金、今すぐ耳を揃えてかえしてもらおか」と、母親から真顔で請求されるようなワタシなので、どこの海岸なのかはさっぱりわからない。
当時住んでいた場所から推測すると、多分本州の上の方なんだと思う。真ん中(東京)は通過していなかったはず…(←
その砂浜は歩くと「きゅっきゅっ」と砂がまるで鳴いているかのような音をたてるという場所で、ビーチサンダルに肩だしワンピースの元気いっぱいなワタシは友達と一緒に砂浜を走り回っていた。そう、可愛い子犬のように縦横無尽にあっちへフラフラこっちへフラフラと、かなりのスピードできゅっきゅきゅっきゅと猛ダッシュ。
そして親から結構な距離が離れた場所で、ワタシはふと「足を水に浸してみたいなぁ」と思いたち、波打ち際へとダッシュしはじめた。きゅっきゅっきゅっ。
あの日の波打ち際は、荒れているとは言えないけど穏やかとも言えない。そんな穏やか寄りの荒れ具合だったので、海に浸っているワタシの両足には絶えずざっぱんざっぱんと波が打撃を加えていた。
打ち寄せる波の力で倒されることは無かったけど、これは少し危険かもしれないと本能的に悟ったであろうワタシは、打ち付ける波から逃れるべく、砂浜へと上陸するためにくるりと方向を変える。
その時、ワタシの右足に「スルっ」という何とも言えない感覚が走った。
「ん?!」
後ろを振り返ると、ワタシの右足に装着されていたビーチサンダルがぷかぷかと浪間に浮かんでいるではないか。
「びーさんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ(絶叫」
ヤバイ。
これはヤバイ。
ビーサンが流されてしまったらオカンに何を言われるか分かったもんじゃない。真っ赤に染まった鬼の様な形相で両手を腰にあてながら「アンタ!ええかげんにしいや!」と大きな雷を頭上に落とされるに違いない。
やばいやばいやばいやばい
血の気がすーっと引いていくのを感じている間にも、ビーサンはそんなことにはお構いなしに、どんどんどんどんと沖の方へと流されていく…
どうしよう…
あ、そうや。
今なら手が届くかもしれん…
そう思ったワタシは「うわぁぁぁっぁぁぁぁ」と叫びながら海へと向かって一直線に走り出した。そんなワタシを見て、お兄ちゃんが「アカンアカン!」と叫んでいたような気がしなくもないけど、大爆笑していたような気もしなくもない。真実は闇の中。でも多分、ヤツの性格を考えると大爆笑の可能性の方が高いな…。ヒトデナシメ…(←
と、オカンの大激怒確実な大ピンチに陥り、絵にかいたようなパニック状態のワタシは腰まで水に浸かったあたりで( ゚д゚)ハッ!と我に返ることになる。
「うっわ。やばっ。ワンピースべちょべちょなってるやん…」
海水でぼっとぼとになったワンピース。この状態がオカンにバレたら真っ赤に染まった鬼のような形相で両手を腰に当てて「アンタ、ほんまにええかげんにしいや」と絶対零度の風を全力で全身に吹き付けて全てを終わらせにかかってくるに違いない。
もうどうにもこうにもならないと観念したワタシは、ビーサンを諦め、ワンピースからぼたぼたと海水をしたたり落としつつ、号泣しながらオカンのもとへと歩き出した。
「もうアカン。家に連れて帰ってもらわれへんかもしれん…」
頭の中は真っ暗になった砂浜にぽつんとひとり、ボトボトのワンピースを着て右足裸足の三角座りなワタシのイメージしか浮かばない。
とその時、一番近くにいた友達のお母さんがビックリした顔でワタシに声をかけてくれた。
「○○ちゃん!?どうしたん?!」
「びーさん流れていったぁぁぁぁぁぁぁぁ(号泣」
「そうかそうか、ボトボトやけど取りに行こうとしたんか?」
「だっでぇぇぇえぇぇ。お”ごら”れ”る”ぅ”ぅ”ぅ”ぅ”(号泣」
「ビーサン流れたんやったらしゃーないしゃーない。取りに行ったら危ないから諦めなあかんで?」
「だっでえ”ぇ”ぇ”ぇ”(号泣」
「お母さんそんな怒らへんよ。大丈夫大丈夫」
「だいじょうぶじゃな”い”ぃ”ぃ”ぃ”ぃ”(号泣」
皆のいる場所までおばちゃんに連れて行ってもらうも、オカンに怒られるのが怖くて怖くて
「あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”あ”ぁ”ぁ”(号泣」
と泣き続けていたワタシだったけど、オカンは
「サンダルはしゃーないわ。大丈夫大丈夫」
と大爆笑しながら迎え入れてくれた。
オトンに「モノは無くなることも壊れることもあるし、海に流されたものは危ないから取りに行かんでもええんやで」と慰められているワタシは、オカンに怒られなかったことにより号泣こそ止まっていなかったけど心は平穏を取り戻していた。
そんなワタシの耳は、友達の母がオカンに言った
「いっつもどんだけ厳しく怒ってんのよ(笑)
あの何とも言えん顔、めちゃくちゃ見せたかったわぁ~(笑)」
という言葉をはっきりととらえていた。
大人になった今ならわかる。
我が子が半狂乱になって、命をかえりみずビーサンを取り戻しに海に猛ダッシュしていった後、号泣しながら自分に怒られることを一番恐れていることが分かった瞬間の母の気持ちはどれほどのものだっただろう…
あの時、オカンの方が泣きたかったかも知らんね。
ほんまゴメン。
直接は謝らへんけど、ここで謝ることでチャラにしといてください。
(´ー`) ヨロシク
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