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スタートアップ・ネーション イスラエルへようこそ

Sports Proというメディアに3月4日に寄稿されたSteven Impey氏の記事。スポーツテックという分野の記事は余り目にしていなかったので読んで日本語にしてみた。取り上げられたスポーツテック企業は、Colosseum Sport、WSC Sports、Pixellot、PlaySight Interactive。全体の趣旨は、「ゲームチェンジとなるアイデアは頻繁に出るわけではないが、出た場合には全く新しいサプライチェーンを実現する可能性がある」と言うメッセージ。拙い翻訳はご容赦。

 過去10年以上に渡り、イスラエルのスタートアップ経済は、AI関連の研究開発に対する国際投資から利益を得てきた。現在、イスラエルのスポーツ・テックセクターは急速な成長を遂げており、自動化シフトへの拠点となる可能性がある。
 インターネットの発明は最終的に我々にスマートフォンをもたらし、結果として通信業界のブームは2.4兆ドルのディジタル・エコシステムを生み出した。ブラック・ミラー(イギリスで放送されているSFシリーズ:新テクノロジーが予期せぬ結果をもたらす社会を描く)のない世界では、パーソナルバンキングはまだ初歩的な事業であり、GPS技術は軍の予備品であり、ソーシャルメディアも存在しなかっただろう。
 ディジタル時代がもたらすイノベーションの機会を考慮すると、今日のテクノロジーの巨人たちが、新たなコンセプトを評価するために専用のR&Dセンターに投資をすることは驚くことではない。そのような投資をする世界で最も豊かな投資家のいくつかは米国を拠点としている。しかしながら、驚くべきことは、この傾向が世界のスタートアップエコノミーに如何に影響したか、である。
 アメリカは起業家精神の温床だが、一方、イスラエルでは技術スタートアップが最も密度高く生まれており、Microsoft、Intel、Apple、Google、Facebook等を含むシリコンバレーの大企業のいくつかは、彼ら専用のR&D施設に投資をしている。イスラエルの軍と、関連する広範な防衛産業は、ソフトウエアエンジニアを育成する場と考えられており、今や自動化及びAIの分野で世界のリーダーとなったように、イスラエルの急成長する技術分野の成長に貢献している。
 60億米ドルと評価されるイスラエルのハイテクエコノミーは約8,500の企業で構成されている。スポーツテックの分野では、企業はこれまでに8億ドル以上の資金を調達したとされるが、200以上のスタートアップが活躍している。しかし、イスラエルは現在の人口が約850万人程度の小国であり、丁度良い規模のスポーツ産業はあるものの、国内のビジネス機会は地元のサプライヤーに限られている。このような状況により、広く知られるようになった“スタートアップネーション”は、今後の5年で311億ドルを超えると予測される世界のスポーツ市場でビジネスを狙うようになった。
 スポーツの世界では、自動化ソフトにおけるイスラエルの専門技術が、ライブ放送、アスリート開発、ファンエンゲージメント、スタジアム運営、eスポーツなどで採用されている。従って、世界のステージで拡がるイスラエル技術の役割は、新たなバリューチェーンの始まりを表しているとも言える。そこでは、かつては産業と軍事のツールに特化していたAI技術を、スポーツがより普遍的なリソースへと変える手助けをしているのだ。
 「すべての大きな産業には大きな発明があり、その後に続く発明があります」と、テルアビブに拠点を置く国際的なスポーツ技術革新グループであるコロッセウムスポーツ(Colosseum Sport)の創設者であるオレン・シマニアン(Oren Simanian)は説明する。「イスラエルはコンバット兵士向けの技術を開発している世界最大の市場の1つであるため、ここには優位点があります。 スポーツでは、私たちはまだ優位点を生かした大きな発明を経験したとは思っていません。 すべての市場は大きな発明から成長しています。 それらのいくつかを見ていますが、まだ初期段階です。」
 アーリーステージにあるスタートアップが世界レベルにスケールするよう支援しているシマニアン氏によれば、イスラエルは「最高のスポーツ国」ではなく、「新しい技術のアーリーアダプター」としてのみ国際的なスポーツにおけるその地位を高めることができる。「私達は小さな国ですが、技術の質がスポーツの質を高める事ができる、という考え方をしっかりと守ることで、イスラエルのマーケットは世界中のスポーツ産業と共に働く方法を見つけたのです。」
 イスラエル企業が外国の企業と協力する機会は、メディア消費の広範なトレンドとともに広がっている。特にコネクティビティの成長と4Gの採用、そしてまもなく5Gの採用により、これらの企業が生産するソフトウェアの種類はよりスケーラブルで手頃な価格になった。メディア企業は、ライブスポーツを含むコンテンツを、好きな場所や時間にコンテンツを消費したい世界中の何百万人もの人々に配信する手段、を提供されているのである。
 オーバーザトップ(並外れて異常)な消費が、2025年までに850億米ドルを超える世界的なスポーツの権利収入をもたらす、と予測されている現在、世界中のリーグや連盟は、独自のコンテンツのアウトプットスケーリングができるような新しいアイデアに期待しており、一方では、その多くは消費者向け製品を通じて収益を生み出す新たな方法を試行している。資産(properties)の増加は、イスラエル製の自動化技術への投資を意味している。
 このトレンドの恩恵を受けた有名な企業の一つは、テルアビブに拠点のあるWSCスポーツである。この企業は、NFL、NBA、その他のフランチャイズオーナーからの投資により、2011年の設立以来3900万ドルの資金を集めた。テルアビブから約10Km東のペタティクバに拠点のあるPixellotは、12月に330万ドルを投資し、Pixellotの自動化技術をディジタルスポーツコンテンツの制作に活用しようとするブラジルのメディア企業Grupo Globo、 を含む多くの支援を惹きつけている。
 ・WSC Sports, the NBA and starting the personalised video evolution
 イスラエルの狭い市場から世界のステージで名を上げるために現れたもう一つの企業は、PlaySight Interactiveで、先進的な機械学習ソリューションを提供する。テルアビブに拠点を置き、もともと、コートを使うスポーツのコーチングツールを構築、2010年の設立以来、Novak Djokovic,、Pete Sampras and Billie Jean Kingなどを含むテニスの大御所からの投資を受けている。
 「多くのイスラエルのスタートアップと同様、私たちには軍のバックグラウンドがあります」と、PlaySightのCEOであるChen Shachar氏は説明する。私のパートナーと私は、主にイスラエル空軍向けのトレーニングレビューシステムの開発と報告に特化してきました。既にご存知かと思いますが、イスラエルの兵役は必須であり、軍のテクノロジーユニットで働く多くの人々がいます。彼らは最先端のサイバーテクノロジーにさらされており、その技術は市場のさまざまな業種に適用できます。」
 「会社を始めたとき、私たちは戦闘機のパイロットがどのように訓練されたかというコンセプトと同じ概念をスポーツに持ち込みたかったのです。私たちは、ナイキが靴のセンサーと、トラック上のアクティビティをデジタルの世界と結び付けることでやろうとしていること、にかなり触発されました。」
「高度なマシンビジョンテクノロジー」を利用してプレーヤーとボールの両方を追跡することにより、Shacharはもともとコーチングの目的でデータとビデオを組み合わせる機会を見つけた。しかしPlaySightの製品は、その後ストリーミングメディアに導入された。
 「私たちが提供できた最初のサービスは、自動生成に関するものでした」と彼は続ける。「したがって、コートがカメラを用いてインターネットにつながっている場合、コート上の活動をライブストリームできない理由はないと考えました。私たちは、(私たちの技術が)スポーツ分野にはまだ存在していなかったことに驚きました。空軍は、以前はパイロット自身による主観的な観察に頼っていましたが、彼らがやっていることを説明する(ブリーフィングする)ためには客観的なビデオとデータが必要であることに気づいたのです。」
 「それが、私達が「スマートコート」というコンセプトで、ボールを使っているスポーツにもたらしたいものであり、ジムやスイミングプールをインターネットに接続することで、コート上の物理的な活動をディジタル化することができるのです。」
 ・Nine Israeli startups to watch in sports tech
 テニスをルーツとして開発されたたPlaySightの技術は、今や35以上のスポーツで利用されており、12のNBAチーム、米国テニス協会(USTA)、チェルシーなどのヨーロッパの主要なサッカークラブはすべて初期のトライアルで価値を見出している。
 Shacharは、「イスラエルには市場はありません。従って、私達は、最初からアメリカ、イギリス、ヨーロッパ、アジアに行く必要があることを理解していました。他の国では最初はローカルで始めることができるのかもしれませんが。イスラエルはスポーツが得意な国ではありませんが、スポーツが大好きな国です。起業家はスポーツに触れ、スポーツに対する情熱を持っているので、テクノロジーがスポーツの世界に参画する私達の方法なのです。イスラエルには技術とノウハウがあるのです。」
 「私たちが事業を始めたとき、世界中のスポーツテクノロジー企業の数は数えることができました。今ではスポーツテクノロジーは世界中で活況を呈しており、自動データ収集とコンテンツ生成のニーズが高まっています。イスラエルはその波の一部であり、私たちはソリューションを開発する手段を持っています。その一方で、スポーツ産業で働くことは、私たちの仕事と情熱とを結びつける方法を提供してくれました。」
 シマニアンによれば、イスラエルで利用できるデジタルソリューションの豊富さと多様性は、パーソナライズ化されたコンテンツサービスを業界全体で推進していることによる。Pixellot、PlaySight、WSCなどの企業は、個々のスポーツに合わせて夫々の製品をカスタマイズできる能力により、成功したと彼は言う。
 「市場にはギャップがあります」と彼は詳しく説明する。「ソフトウェアとテクノロジーが利用可能です。我々はそれを繋げば良いのです。一方で、多くの技術がスポーツに関わる他の企業と連携する機会があると考えています。スポーツはかつてのようなものではありません。チームでもなければ、クラブでもなく、通常の企業でもありません。スポーツ組織は自らを国際企業と見ているのです。」
 国内でのビジネスの可能性は不足しているが、シマニアンは、イスラエルのアーリーステージのビジネスは、主要な国際市場に参入する前にイスラエル市場をテストの場として活用することで十分に役立つと考えている。これを念頭に置いて、この豊富な国内技術に投資する機会を見込んでいる地元の組織の1つは、イスラエル・プロフットボールリーグ(IPFL)であり、Chief Executive Nicolas Levは、国内トップのサッカーであるイスラエルプレミアリーグを、起業家が新しいアイデアを試すプラットフォームとして積極的にプロモートしている。
 具体的には、IPFLは現在、データ、チケット販売、ファンタジーゲーム(オンラインゲーム)、ファンサービスの分野で企業と協力する新しい機会を模索している。また、特に必要な資金、メディア露出、ビジネスコネクションを提供することにより、スポーツテック分野のスタートアップを支援するベンチャーキャピタルファンドの創設の可能性を評価している。
 「テクノロジー企業とのこれらのパートナーシップのうち、すべてが成功するわけではなく、一部は終了することもわかっていますが、一部は非常に成功し、いつかは50億米ドルの価値になるであろうこともわかっています」とレフは言う。 「明らかに、早い段階でそのような会社に投資することにより、この種の収益は私たちのビジネスを変えることができるのです。」
 確かに、IPFLは、新たに生まれる技術が、やがて、ゲーム、ひいては国全体を国際地図に載せることを助け、イスラエルのサッカーの発展に極めて重要な役割を果たすことを期待している。
 「私たちは、イスラエルのスポーツテクノロジー企業を、双方にとって役立つ方法でリーグに統合しようとしています」とレフは言う。「私たちは彼らに彼らの能力を実証できる場を提供し、彼らを世界のより大きなリーグにつなげることができます。それはより収益性が高く、より多くのお金を使う余裕があるのです。」
 「私たちはヨーロッパで最高のリーグではありません。おそらく中東で最高のリーグの1つです。しかし、イスラエルが「スタートアップネーション」と見らることを考慮して、サッカーで最高にならないと決めました。 私たちはイノベーションと技術で最高になります。」


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