2/10:ダンス
幼児向け番組は賑やかだ。可愛らしいセットで、明るいメロディと平易な歌をおにいさんとおねえさんが笑顔で踊る。
なんだかんだ言いながら、朝食の後でそういう番組を見るのはしぐれの日課になっている。テレビの前に座り込んで一生懸命に見入っている姿はごく普通の幼児らしくて愛らしい。
が。
その番組の後は海外ニュース、株式市況と決まっているので、愛らしさは台無しだが、とてもしぐれらしい。
テレビやラジオ、新聞雑誌から得られるものから情報を得る諜報活動を Open-Source Intelligence、略してオシントという。
自称・優秀なミューミントには大切な時間なのだ。
岳はその間に細々とした家事を済ませる。
キッチンを片付け、掃除機をかけ、洗濯機を回す。いや、今日は洗濯機のクリーニングからだ。ドラム式洗濯機は埃をマメに取らなければいけないのだ。
段取りを組み立てていると、しぐれがキッチンにパタパタと走ってきた。
「岳、きいてください!」
「どうした。何か情報でもキャッチしたか」
「残念ですが、オシントだけでは機密情報にはたどり着けませんよ。手がかりを知る、あるいはプロパガンダ効果を確認するのがオシントですからね」
したり顔で説明してくれるのを聞き流した岳は、「じゃあ何だ?」と促してやった。
「新作ができあがりました」
「新作? 何の?」
「ダンスです」
しぐれは大好きなスーパーやドラッグストアのテーマソングに勝手に振りをつけて踊りたがる。
「『ごりょうしんといっしょ』のダンスはとても参考になりますね」
さっきまで見ていた番組を参考に、新作を作ったということか。
これは、見るまで解放されないやつだ。
岳は早々に観念した。
「では、いきますよー! いっしょに歌ってくださいね、岳!」
短い腕を伸ばし、足を開いて決めポーズ。からの、元気の良い歌声だ。
「デイデイエブエブ デイリーエブリー!
ハッピーいっぱい デイリーエブリー!」
くるくるくる ぱらぱらぱっぱ
楽しそうなしぐれのダンスは始まったばかりだ……。
(NK)
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