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2/6:しぐれ煮

「はー。朝のしぐれ煮はとてもおいしいですね」
 朝食のテーブルでしぐれが言った。

 今朝のメニューは極小おにぎりと豆腐の味噌汁、厚焼き卵、それに茹でたキャベツとにんじんのサラダだ。もちろん、おにぎりの具は当然、しぐれ煮である。

 岳はどんぶり飯とアジの干物が増える。成人男性のほうが必要とするエネルギー量が多いからだ。ほぐしたアジの身はしぐれの口にも入れる予定だ。

 基本的にしぐれは何でも食べるが、しぐれ煮はやはり、特別に好きなようだ。
 しぐれ煮は調理法だから、具材はいろいろとある。元祖は蛤だったらしいと、岳も調べて知った。

 ちなみに、しぐれが一番好きなのは牛肉のしぐれ煮で、次いでホタテ、鶏肉と続く。蛤は食べさせてやったことがないから、食べたら順位が入れ替わるかもしれない。

   ×   ×   ×

「お昼ごはんに食べるしぐれ煮はかくべつだと思います」
 昼飯は小さく焼いたホットケーキと温めたミルク、それにしぐれ煮だ。豆皿にほんの少しだしてあるだけだが、しぐれ煮があるとしぐれの機嫌がいい。

「お前、本当にそれでいいのか」
 バターとシロップをかけたホットケーキの上に、ちんまりとしぐれ煮を載せて食べるのがしぐれの食べ方だ。
 甘いとしょっぱいを一度に口に入れるのは上級者かもしれない。
 いや、そうか?

「とてもおいしいですよ、岳」
 くふふ、と、しぐれが笑う。

   ×   ×   ×

「夜に食べるしぐれ煮はほんとうに味わい深いものです」
 夕食のテーブルで、こども用スプーンを握りしめたしぐれた言った。

 今夜のメインは特売だった関西風コロッケ、それに茹で野菜とコーンスープを添えてある。しぐれの前の皿には極小ロールパンがひとつ、岳の皿には同じものが山盛りになっている。昼と同様、豆皿にはちょっとだけのしぐれ煮だ。

 飯だけでなく、パンや麺もバランスよく食べたほうがいいと育児書に書いてあったので、毎日メニューは岳なりに考えているのだ。

「そんなに美味いか、しぐれ煮」
「はい」
 しぐれが満面の笑顔で応えた。


(NK)

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