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『アンビシャス』読書感想文

埼玉県秩父市で生まれ育った私は、小学生の頃、埼玉県所沢市に本拠地がある西武ライオンズのファンだった。当時はファンクラブにも入っていて、年に1〜2回、父に連れて行ってもらい、球場でも観戦していた。

小学生の頃は、ライオンズの応援に行くのがとても嬉しそうだったようで、一度、球場に向かう電車の中で知らないおじさんから声をかけられて、西武球場のないや自由席の入場券をもらったこともある。

同じ県内に本拠地があるだけで親近感が湧くのだから、同じ市内や生活圏にプロスポーツの本拠地があったら、多くの人たちが応援しようという気になるだろう。

私が小学生の頃、日本ハムファイターズは後楽園球場を本拠地として、それほど強くない球団の1つだった。数十年の時を経て、北海道の札幌ドームに本拠地を移すと聞いたときは驚いた。でも、札幌を中心とした北海道の人たちは大いに盛り上がり応援し、その応援に応えるようにファイターズは強くなっていったように、傍目には見えた。スター選手もたくさん出てきた。

2016年5月、ファイターズの新球場建設計画が報道された。北海道に移転する前のファイターズは、後楽園球場とその後継である東京ドームを本拠にしていたものの、これらの球場はジャイアンツの本拠地として浸透しており、どことなく間借りしている感じが否めなかった。

2003年8月に本拠地を札幌ドームに移し、名称を北海道日本ハムファイターズとすると、安住の地を得たかのように思えた。だが、徐々に球団は札幌ドームを出て、新たな本拠地となる球場をつくろうと模索し始める。

そしてつくられたのが、札幌市の隣の北広島市にあるエスコンフィールドだ。エスコンフィールドができて、最初のシーズンが終わった今となっては、「なぜ、新しい球場をつくったのか」という疑問をもつ人はほとんどいないだろう。

だって、あんなにすばらしい球場やそこでおこなわれる試合を見ているのだから。

でも、実現するまでにはたくさんの人たちが「札幌ドームがあるのに、なぜ、新しい球場をつくるのか」という疑問をもったという。『アンビシャス』は、ファイターズがなぜ新しい球場をつくろうとしたのかという疑問に答える本だ。

ファイターズだけでなく、北広島市、札幌市など、様々な立場の関係者を取材し、新球場建設の決断や候補地選定の過程がていねいに書かれている。たくさんの人から長い時間をかけて取材をした内容を、ドラマのようにまとめているので、会議や交渉の現場にいるような臨場感をもって読み進めることができる。

ここまでまとめるのには相当苦労したのではないかなと伺える。と同時に、おもしろくて一気に読んでしまった。エスコンフィールドはたくさんの人たちの力がなければできなかったものだが、最初に夢や理想を語る人は周囲にあまり理解されないことも、この本では示されている。そこからどうやって実現に至ったのかについては、ぜひ、本を読んで頂ければと思う。

このままでも十分おもしろいのだが、個人的には親会社の日本ハム側の動きももっと盛りこんでもらえたらもっとよかったとも思う。が、取材などの関係で難しかったのかも知れない。

2023年のシーズンはエスコンフィールドに行くことはなかったけれど、2024年のシーズンには、1度は行ってみたいなと強く思った。あと、久しぶりにベルーナドームにも行ってみたいなとも。


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