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「虎に翼」と令和の時代

2024年4月からNHKで始まった「虎に翼」。おなじみの朝の連続テレビ小説、通称、朝ドラの最新作だ。僕にとって朝ドラは、女性の主人公が困難に立ち向かい、自分の人生を切り開いていくという感じのドラマがつくられているという印象だ。最近は、実在の人物をモデルにしたものが多い。今回は、日本初の女性弁護士・判事・裁判所所長となった三淵嘉子さんをモデルにしているサクセスストーリーかな、くらいの軽い気持ちで見始めた。

まだ1週目が終わった段階だが、今回の「虎に翼」はいつもの朝ドラとは一線を画しているように感じる。単なる女性のサクセスストーリーというよりは、1人の女性の生き方を通して、日本の女性がどのように社会と戦い、現在の状況をつくり出してきたのかを見せるドラマのように思った。

僕は男なので、女性の生きにくさの本当のところはわかっていない部分があるが、現在でも、進学、就職、結婚、出産など、人生の要所要所で、難しい選択を迫られることが多いだろう。

男も女も関係なく、誰もが働く時代になっても、結婚した女性が仕事を続けるのは難しい状況が、まだなくならない。その要因の1つとして挙げられるのが、いわゆる税金の配偶者控除、社会保険の第三者被保険者制度、企業の配偶者手当てだといわれている。これらの制度は一見、女性を優遇しているように見えるが、優遇しているのは、配偶者の扶養に入っている既婚女性だけ。しかも、既婚女性が一定の金額以上を稼ぐと、これらの優遇はなくなってしまうので、女性の社会での活躍を妨げるものだと考えている専門家が多い。

最近、これらの制度をなくそうとする動きがあり、Yahoo!ニュース特集で、識者に話を聞き、そのあたりのことをまとめた記事を書いた。

第二次世界大戦後の日本は民主国家となり、女性の参政権が認められ、徐々に社会進出するようになったが、なぜ、配偶者控除や第三者被保険者制度のように、配偶者の庇護を受け、家の中の仕事だけに向かわせるような制度がこのされているのだろうか。

そのヒントを、「虎に翼」に見たように思った。「虎に翼」では、当時の民法(明治民法)では、既婚女性は無能力者とみなされ、社会的な行為をするには夫の許可がいると説明されていた。

だが、家事は妻は夫の代理人とみなすと民法に明記され、夫の許可がなくても、自分の裁量でできると規定されている。

要は、結婚した女性は、社会的な活動をせずに家事に専念するようにと、法律に規定されていたわけだ。

戦争が終わり、憲法をはじめ、法律は改められ、男女同権になったのだが、人の意識は急に変わらないところがあるのだろう。実際、戦前の考えを今でも引きずっているような考え方の人もいる。

Yahoo!ニュース特集の記事でも問題になっていた第三者被保険者制度は、女性の社会進出の象徴ともされた男女雇用機会均等法が制定された1985年につくられている。女性の社会進出の観点で見ると、アクセルとブレーキが同時に踏まれた感じで、ちぐはぐになっている。女性が社会で活躍すると困る人がいて、阻んでいるようにも見える。

「虎に翼」で描写されていた昭和初期は、女性の社会での活躍がもっと阻まれていたことだろう。それはドラマの端々から感じられる。主人公の猪爪寅子は、そのような逆風にも負けずに、どんどんいろいろな扉を開けて、その後に続く人たちの目標となっていくだろう。

猪爪寅子のモデルとなった三淵嘉子さんをはじめ、先人の努力や活躍があったからこそ、いろいろな制度ができたり、改められたりして、今の世の中になっている。だが、今の世の中になっても、「頭のよい女が、頭の悪いふりをしてしたたかに生きなければいけない」状態は続いている。

このドラマは視聴者である僕たちの社会も照射している。女性がもっと生きやすい世の中になれば、男性にとっても生きやすい世の中になるはずだ。このドラマをきっかけに、女性も男性も生きやすい世の中になる動きが出てくるといいな。

ちなみに、タイトルの「虎に翼」は韓非子の言葉で、番組のWebページでは、以下のように説明されている。

中国の法家『韓非子』の言葉で、「鬼に金棒」と同じく「強い上にもさらに強さが加わる」という意味があります。五黄(ごおう)の寅年生まれで“トラママ”と呼ばれたというモデルの三淵嘉子さんにちなみ、主人公の名前は寅子(ともこ)で、あだ名は“トラコ”です。 法律という翼を得て力強く羽ばたいていく寅子が、その強大な力にとまどい時には悩みながら、弱き人々のために自らの翼を正しく使えるよう、一歩ずつ成長していく姿をイメージしています。

NHKのWebページより

法律家の話だから、古代中国の法家である韓非子の言葉をもってきたのかもしれない。でも、同義語の「鬼に金棒」がどちらかというとポジティブな場面で使われる印象があるのに対し、「虎に翼」は「虎に翼を与えてしまうと、村にやって来て人を食ってしまう」ということで、愚か者に力(権力)を与えてはいけないという意味合いの言葉のようだ。

当時の女性たちはこのように見られていて、家の中に押しこめられていたのかもしれない。猪爪寅子がこの言葉を打破して、活躍していくという意味なのか。それとも、今の社会が「虎に翼」のようになっているという意味なのか。どちらなのかは気になるところ。まだ、始まったばかりだが、これからの展開が楽しみだ。

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