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SLIMの月面着陸は大成功

JAXAの小型月着陸実証機「SLIM」がいよいよ月面着陸するということで、1月19日22時頃、神奈川県相模原市にあるJAXA相模原キャンパスに開設されたプレスセンターを訪れた。

日本初の月面着陸への挑戦なので、メディアの注目度も高かった。プレスセンターのオープン時間から少し遅れて到着したら、既にたくさんの記者が陣取り、着陸の瞬間を今か今かと待ち構えていた。

JAXAの公式YouTubeチャンネルでは、ライブ配信をやっていて、プレスセンターでもその様子が流されていた。SLIMの運用は順調に進み、22時40分には月面15kmの地点にまで迫るための軌道変更(近月点降下マヌーバ#2)を実施し、高度15kmまで降りる軌道に乗った。これであとは、月面着陸のシーケンスに入るかどうかだ。

そして、日付が20日変わった0時頃に、月面着陸シーケンスが実行された。管制室の様子はあまり表示されなかったが、今回、僕から見て、とてもいいなと思ったのが、SLIMの状態を示すデータがわかりやすく示されていたこと。

このデータはSLIMから送られてくるテレメトリデータの一部をわかりやすくビジュアル化したものだ。速度を落とすためのメインエンジンや姿勢などを修正するスラスターなどの出力の様子やSLIMの位置情報などが、リアルタイムに表示されて、月面着陸に挑むSLIMの様子が相模原にいながらにして手に取るようにわかり、とてもおもしろく、思わず、Xに連投してしまった。

月面着陸のシーケンスに入ってからは、あれよあれよという感じで、20分間でいろいろなイベントが流れるように進んでいき、着陸予定時刻にはしっかりと月面着陸モードになっているように見えた。

ただ、3回目のホバリングのときの時間が短い感じだったり、SLIMの高度がマイナスになっていて、データ上は地面にめり込んでいるように見えたりと、ちょっと不審な点はあったけれど、概ね着陸成功しているのではないかという印象だった。まあ、管制室で詳しい状況を確認するけれども、わりと早く結果の報告があったりするかなと、ちょっと楽観的にとらえていた。

でも、なかなか記者会見が開かれる気配がない。これは何かあったのかなと思うものの、SLIMからテレメトリデータが引き続き送られているようで、機体はしっかりと動いているようだ。特に重力加速度の数値は、月の重力と一致しているので、月面にいるっぽい感じだ。でも、会見がなかなか開かれない状況が気がかりだった。

この1.630という数値が月の重力をSLIMが受けていることを示している。

そうこうしているうちに、時間が経ち、2時10分から会見が開かれることになった。登壇者は山川宏JAXA理事長、宇宙科学研究所の國中均所長、藤本正樹副所長の3名。3人とも神妙な面持ちだったので、悪いことでも起きたのかと少し心配になった。

少しトーンの低い山川理事長から語られた言葉は、「SLIMが月面着陸に成功し、通信も確立している」との報告だった。まずは一安心。でも、その後に「太陽電池が電力を発生していない」という話が続いた。だから、その対応に追われていたのかと、記者会見が遅くなった理由もわかった。予期せぬ出来事があったから、JAXAからしたら、完全に喜べる状況でもないということなのだろう。

月面での1日は地球上の1か月ほどあり、SLIMが着陸した場所は月面での朝を迎える時間帯。太陽電池がしっかりと発電していれば、2週間くらいしっかりと動いたかもしれない。そうすれば、月面着陸時のデータもしっかりと地球に送れるし、表面の岩石の分析もできただろう。でも、太陽電池が機能しなければバッテリー頼みとなり、数時間で止まってしまう。その短い時間に、月面着陸のデータなど、必要なものを地上に送らないといけないので、管制室は緊急事態になるよね。

でも、せっかく日本初で、世界でも5か国目の月面着陸に成功したのだから、もう少ししっかりと喜ぶ姿勢を見せてもよかったのではないかと思った。着陸はしたもののトラブルがあったから、そんな気持ちになれないとか、どうするのかをいち早く考えないとというのはわかる。でも、それは管制室の人たちももちろんやっている。

せっかく、記者会見を開き、公式の第一声を出すのだから、喜ぶ姿を世界に示してくれてもよかったのになと重ねて思う。本人が喜ぶ姿を見て、周りの人もしっかりと喜べるということもあると思うし。

僕からすれば、SLIMは着陸しただけで優勝ですよ。しかも、ちゃんとピンポイント着陸できていたようだし。もう、100点満点。大喜びしちゃいますよ。

ただ、大きな謎なのは、やはり、なぜ太陽電池が発電しないのか。話を聞く限りだと、太陽電池そのものが壊れたわけではなさそう。SLIMの機体自体も健全なうようだ。だとすると、着陸したときの姿勢が予定と違っていたので、太陽電池に太陽光が当たらないのではという考えが浮かぶ。

そこで、思い出すのが、SLIMからのテレメトリデータだ。テレメトリデータでは、月面着陸モードになったSLIMが変な姿勢になっていた。

あれが月面でのSLIMの姿勢を正しく示しているのだとすれば、横向きに倒れ込むはずだったSLIMが逆立ちしたような姿勢になってしまったということだ。

SLIMの本来の着陸姿勢
実際はこのように着陸しちゃった?

しかも、太陽電池が月面での西側を向いてしまったために太陽光が当たらずに発電できない状態なのかもしれない。これはあくまで推測なので、JAXAからの続報を待つしかないけど。

機体が健全で、太陽電池の機能も問題なければ、何かのきっかけで太陽電池に光があたるようになればSLIMが復活する可能性はある。問題は月の昼間は表面温度が110℃くらいになってしまうので、機体が熱に耐えられるかだ。こればかりは祈るしかないところ。何とか復活して欲しい。できることなら、SLIMの姿勢を直しに月に行きたいくらいだ。

最後にもう一度言うけど、SLIMの月面着陸は大成功。しっかりと喜んでいこう!


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