黒よりも暗い -11-
右目を瞑っている。気が付くと瞑っている。人間の時からそうである。体力が無いときに瞑っているのか。それとも両目を開くとすぐに全エネルギーを消費してしまう癖があるのだと思う。体力なんて温存する必要があるのか。煙草もしばらく吸っていない。煙草は人間のものか。煙草が吸いたい。健康のために辞めていた。健康どころか鬼となってしまった。鬼は不健康と言い難いか。勉学と少しはできていたらしい。幼少の頃は何故か一目置かれていた。特に勉強せずとも高得点が取れた。努力はしなかったスポーツもそうである。しかし、次第に抜かれていくのがわかった。驚く。憂鬱になる。だが、そもそもその考えがおかしいことに今ようやく気付くのである。人は何かしら努力しながら成長するものなのだ。私は努力をしなかった。もちろん努力なしで結果を出す天才がいるが、私は天才ではないことが今わかる。極端なのである。天才か馬鹿。少し努力すれば結果が出せるのに、幼少の天才児のような生き方が染みついてしまい、努力の仕方がわからないのである。努力の良さがわからない。そもそも努力をする対象がない。みつけようとしてもみつからない。そう、洞窟の中を見ていたのはその理由であった。幼少から心がないのだ。心で動いていたのはおそらく4歳ぐらいまでだろう。5歳で心が傷ついていた記憶がある。親から受け止めてもらえない。親から5m離れたところで遊ぶ。3mは近すぎる。しかし、5m以上離れ自由に遊ぼうとすると怒られる。監視されている。まるでペットか何かである。私はあの人たちの子なのだろうか。養子なのでは。無理やり引き取ってもらっているのか。誰かに頼まれたからしょうがなく家に置いているのか。そう考えざるを得なかった。感情の吐き出し口がない。そう5歳から独りで生きていた。5歳で孤立していた。涙もでない。5歳で生きる喜びどころか安心できないことは恐怖でしかない。泣く余裕なんてない。安心できないので自分の希望なんてない。日々楽しめない。いつも親の顔を伺う。既に私は無かった。あるのは親が好む子を私が生きているのみ。私は私を生きていない。本当の私はどこへいったのか。死んでしまったのか。私の奥に閉じこもったのか。もしかして右肩の鬼は本当の私なのだろうか。私が私を大切にできず急に申し訳ない気持ちで一杯になった。私が私を鬼にしてしまった。親は5歳の時に親とは思っていない。心の奥で既にそう判断していたようだ。頭で理解するには大分時間がかかった。心と頭がようやく一致した。一致したのと同時にやはり私には親がいなかったのだとわかり改めて深い悲しみを感じている。薄々は気付いていたがそう感じたくはなかった。私は親の為に生き、糸がすさまじく絡まった修正できないほどの複雑な人生を歩んできてしまった。後戻りはできない。後戻りもしたくない。もしかすると親はまともで私がおかしいのかもしれない。どちらにしろ愛というものがわからない。愛の体験がないものだから鬼へ変化してしまったのだろうか。温もりがない。愛の温もりがわからない。そんなものは寓話の中でしかないのだろうか。しかし、以前人間の時人に聞くとそれは本当にあるらしい。常にぼーっとしているのだ。感覚が鈍い。夢の中にいるのであろうか。やはり私は既に死んでいるのか。心の交流がわからない。わからない故に考える。考えるのはわからないからか。だからよく考える。別に考えるのが好きなわけではない。わからないから考える。私自体がわからない。どうして生きているのかわからない。どうして生きなければならないのかわからない。答えが欲しくで永遠に考える。答えはでない。苦しい。だから答えをみつけラクになるためて考え続けるのだが一向にわからない。既になぜ考えているのかわからないほど考え続けている。私が私に問うている。当然私はわからない。私は居るのだろうか。私は存在しているのだろうか。もしかして周囲が存在していないのか。私の記憶が映し出しているのか。そう思うと急に怖くなってきた。孤独や孤立を長年してでも慣れないのだとこの時分かった。孤独ほど怖いものがない。怖いということはまだ私には人間の心が残っているのだろうか。鬼も寂しいと思うのだろうか。後者であれば確実に私は鬼である。私は何をすればよいのだろうか。人間の頃は洞窟の中を見るのがやるべきことだった。鬼となってしまった今、既に洞窟の中などどうでもいいと思っている。これから私は何をすればよいのだろうか。下界には興味はない。人間には興味はない。いまさら虐められた奴らの復讐をするのも面倒くさい。それほどまでに人間に興味がなくなってしまった。私に危害を加えなければそれでよい。会うことも無いの思うが。微かに右肩の鬼が微笑んだように感じた。私も視界からは見えにくい。右肩の鬼は何か感じたのだろうか。喜んでいたようにも見えた。こんな状況でなぜ喜べるのだろうか。私は少しも喜べない。人間の頃から今までただただ何もなく。ただ悲惨である。生きながらの屍である。人生のあらゆる時間を溝へ捨ててきた。この先何を喜べるというのか。大好きな自然と一体になりたい。溶け込みたい。風と一緒に舞いたい。草花と一緒に踊りたい。大地と共に眠りたい。どうして私だけ独りなのか。右肩の鬼は涙を流して笑っていた。
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