“その日のこと”について父に聞いてみた
父に会った際に、この日の出来事について覚えているか、聞いてみました。父は、「まったく記憶にないし、そんなことがあったなんて、今の今までまったく知らなかった」とのこと。「それ、ほんとなのか?」と繰り返す父の姿に「家に帰った後どうだったのか」がわかるかと思っていた私は、ちょっと拍子抜け。「いったい何がきっかけだったのか、さっぱりわからないが…」との前置きでの父の話は、私にとって更に衝撃的でした。
「あの頃、お母さんは不安定で、しょっちゅう家を飛び出したりしていたからなあ。お前、知ってるか?ガスをひねって自殺を図ろうとしたこともあったんだよ。当時はプロパンガスで、実はプロパンガスでは死ねないらしいけど、窓に目張りをして元栓をひねって、家の外までガスの匂いが漏れていて、「なんかガス臭い」っていうんで慌てて中に入って元栓閉めて事なきを得たんだけど、一歩間違って引火とかしたら大変なことになっていたよ。何かあったら困るし、田舎のお義母さんに連絡してしばらく来てもらったんだけど、その時もいったいなんでそんなことしたのか、結局、理由ははっきりわからなかったんだ」
全然、知りませんでした。私がその場にいなかったとすると、保育園に行っていた時の出来事だったのでしょうか。ただ、幼い頃は「実家に帰らせてもらいます」、「勝手にしろ!」というやりとりの後、しょっちゅう母方祖母宅に連れていかれたりもしていたし、もう少し成長してからは、「いつも川の調査とか言っては店を放っぽりだして、私が店番せざるを得なかった」とか「幸せにするって言ったのに、結局、私がパートに出なくちゃ生活が成り立たなくて、ほんとに騙された!」とか「やっぱり坊ちゃん育ちはダメ」とか、父の愚痴ばかり聞かされていたので、夫婦関係の問題が原因なのではないか、と父には言いました。
「確かに俺もふがいなかったから、若い頃はケンカも多かったけど、あの頃は店もまだ儲かっていたし、ガス事件の時も、じゃあその直前になにかあったとかっていうと、特にこれと言って思い当たるようなことはなかったんだよ。彼女の妹に結婚前に子どもができて、勘当だなんだってなったり、弟が自転車泥棒したって連絡がきたりとか、色々あったと言えばあったんだけど、そんなこと位で自分が死ぬなんておかしいだろう?」
真相はわかりませんが、愛着関係の問題を抱え、自他の境界があいまいな母にとっては自分の価値基準から外れることを周囲の人間がするのは許しがたいことだったのだろう、とは思います。何か大きなきっかけがあった、というよりも、もしかしたら、そういった複合的な要因が原因になったのかもしれません。
父との話は、お互いに「いやあ、全然知らなかった」という驚きを共有する形で終わりましたが「でもお前を道連れに、なんて、そんなことがあったなんて……。気づけなくてごめんな。本当にお前には申し訳ないことしたなあ」と父には謝られました。
「お父さんに謝られるのも変な話だし、今、生きられてるから、別に全然いいよ」というのが、私の心からの気持ちでした。