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この炎は制御不能

フランツ・フェルディナンド(スコットランドはグラスゴーのバンドですね)に熱を上げていた。2004年のことだった。「UKロック・リヴァイヴァル」みたいな動きが活発化していた洋楽シーンに現れた大本命だったと思う。いや、大穴か?

デビューから全てがカッコ良かった。音楽はもちろん、ビデオクリップもアートワークも、そしてバンドの出で立ちも。スタイリッシュだけどどこか退廃的。一歩間違えればダサいと捉えられかねない際どいところを突いてくるセンス。全て策略だろう−–−イギリス本土にとどまらずヒットしたことを除いては−–−《この炎は制御不能》と言わんばかりの席巻ぶりに、私も喜んで巻き込まれたのだった。

大抵パッと燃え上がるものは冷めるのも早い。この熱狂もいつかは覚めてしまうのだから、フランツにはまってしまったのは間違いなんじゃないか? という疑念もよぎったが、でも今このときに熱狂することが大事なんだ。
" Take Me Out ! " と歌いながら享楽することが大事なんだ。そんな気分で私の音楽生活はフランツ色に染まっていた。
彼らのデビューアルバムは、2021年の今聴いても惚れ惚れしてしまうカッコ良さだ。『Frantz Ferdinand』はこれからもフランツといえばこれ! という代表作であり続けるだろう。

「ロックで踊ろう」というスローガンを打ち立てて、それを実行して大衆を踊らせてしまうのが彼らの戦略のひとつだが、もうひとつ映像を意識した音作りも彼らの魅力を引き立てる要素なのではないかと思う。ある特定のイメージを想起させるのが上手いというか。その辺、きっちりしてるなぁと。自分たちの音楽的コンセプトというか美意識が明確にあって、それを形にできるのはやはりアーティストと呼ばれて然るべきだろう。
そういう意味でフランツ・フェルディナンドの3作目『Tonight』も良いアルバムだ。


でも私が今聴きたいのは最新作『Always Ascending』(2019年)だ。ギタリストのニック・マッカーシーが脱退して、バンドの存続が危ぶまれたが、新メンバー2人を加えた5人体制で完成させたアルバム。
常に上昇。というアッパーなタイトルに、少々ぎこちなさを覚えるが、新しい感覚と懐かしい感覚をどちらも取り入れて、今の彼らの音楽を創り出そうとする姿勢は変わっていない。個人的にこのアルバムの勢いはニュー・オーダーが長年の活動休止状態から息を吹き返した『Get Ready』を聴いた時の感じと似ている(その後のニュー・オーダーはまた分裂してしまったけれど…)。


フロントマンのアレックスは「過去は過去さ」と言っていたけれど、ニックがいなくなったことを跳ね除けるかのように『Always Ascending』なんていうタイトルをアルバムにつけるのは一種の反動形成で、所々無理しているんじゃないだろうかと、おせっかいなファン心理もありつつ。

蓋を開けてみると全然アゲアゲじゃない(褒めています:笑)。このバンド特有の反骨精神とか泥臭さが大いに反映されたカッコイイ一枚。あ、でもディスコ感があるのはちょっと上がったノリなのかな。フランツの場合、ディスコとかクラブよりは、地下の薄暗い酒場的な雰囲気の方が似合っている気がするけど…。フランツのアルバムでこれが一番好きと言える、今は。
ラストナンバー「Slow Don't Kill Me Slow」の冷ややかさに背筋がゾクッとする。過去の“フランツ・フェルディナンド”のダイイング・メッセージに思えて。

Franz Ferdinand/Slow Don't Kill Me Slow


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