見出し画像

My Broken-heart's Funeral②

ひとりよがりの片想いばかりしてきた。でもそれなりに傷ついていた恋心たちをどうにかして葬ってあげたい。相手も無傷ではなかったことを承知の上で。

YMさんのこと

 初めて参加した合コンで、2人の男性と連絡先を交換したことがあったっけ。小洒落たバーラウンジみたいな場所を貸し切って、男女20対20くらいで時間制席替え形式という、少し異色の合コンだった。私にとっては後にも先にも1度きりの合コン体験だったから他と比べようがないけど、たぶんスタンダードなやつではない…よね?
 友人同士だというYMさんとDさんとは2周目で相席(?)になった。私と同郷ではないのに、地元のことをピンポイントで知っていたんで、つい舞い上がってしまったんだよなぁ。しかも同い年というので、一気にYMさんたちに親近感を覚えた私は、地元の話ばかりしまくっていたと思う。それ以外の話題を持ち合わせていなかったというのもあるけど。いい歳して結構な世間知らずだったから。今でもそうなんだけど。
 合コンの途中でYMさんたちは会場を抜けて、すぐ近くの居酒屋で飲むことにしたらしく、私も誘われた。驚いた。当時レストランで接客の仕事をしていた私は職場の人に「昼の女」と呼ばれていた。その呼び名をあまり気にしてはいなかったのだけれど、よくよく考えをめぐらせみたところ、「昼の女」=夜が似合わない=色気がないと暗に言われているのだという解釈に到った。色気がない…自分でもそう思う。だから合コンに於いて何かしらの誘いを受けることになろうとは夢にも思っていなかった。いや、うっすらと期待はしていたかな(笑)。
 私は一緒に来た同僚に説明して、1人でYMさんたちについていった。今思うと、YMさんら男性陣は私が連れの女の子を引っ張ってくることを期待していたのかもしれない。そういうことに不慣れな私はそんな空気を読むこころなど持ち合わせていなかったんだよなぁ。がっかりさせてごめんよ。だからたとえそのお誘いの先に「いいことしようよ♡」的なニュアンスが含まれていたとしても気づけないような人間なんだよ、私は。ただ、男女の駆け引き渦巻くその場所から離れたいというYMさんたちに同意したまでだ。YMさんともう少し話したかったし。居酒屋での話はこれといって面白いものでもなかった(興味はすでに失せていた?)けど。
 1時間ほど談話した後、タクシーで帰ることになった。タクシー⁉︎もうバスも電車も走っていない時間だっけ?なんなら歩いて帰ろうかと思っていたけど「夜道は危ないから」と女の子扱いされたことに、私の不慣れなセンサーは正しい反応を示せず、ただ流された。後部座席にYMさんとDさんに挟まれるかたちで座った。これは一番最初に降りるYMさんが左のドア横という、全く合理的な理由からで、それ以上の意味などないのだった。YMさんが降りるその時点まではなんだかんだ喋っていたのが、Dさんと2人になると急に車内は静かになった。どうやら私はDさんと話すときもYMさん経由で話しかけていたらしい。潤滑油がなくなったと気付いた途端に寂しくなってくる。その夜は何事もなく家にたどり着いた。次に2人と連絡とるのはいつになるだろうか…。いや私が連絡を取りたい相手は1人だけだった。

 合コンから間も無く、私はYMさんと会う機会を得た。私から誘ったのは確かだけど、電話だったかショートメールでだったか覚えていない。YMさんとのやりとりを思い出そうとすると、前後不覚に陥る。どの出来事が先だったか後だったかが分からなくなる。多分、私のYMさんに対する働きかけが短い間にいくつもあって、どれも粘度の高いものだったから記憶の中でぐちゃっとくっついてしまったのだろう。
 意中の人と2人で食事をするのがこんなに緊張を強いるものだとは…。いくらデートらしきことをするのは久しぶりだからって、このだんまり加減は相手に失礼だろ。自分から行きたいと言った店なのに、胸がつかえて食べられないし、YMさんが話すことに上手く返せない。頭の中でいろいろ言葉を探しては、結局発することができないまま時間が過ぎる。あれ?前の時はもっと気楽に話せたのに。どうしちゃったんだろう?こんな不穏な空気にするつもりはなかったのになぁ。この白けた場面を思い出すと今でも寒々しい気持ちになる。

 2月9日はYMさんの誕生日だった。居酒屋で「ニクの日はオレの誕生日だ」と繰り返し言っていたもんだから、その情報が脳に張り付いてしまったではないか。自分の誕生日をしきりに主張するなんて、そんなに祝って欲しいのかと勘違いした私はYMさんに電話をかけることにした。発信するまでに何度も《やっぱやめとこうか》《いや、やっぱかけよう》の押し問答が脳内で繰り広げられた。短くないコール音のあとYMさんにつながった。
「今日誕生日だって言ってたから、電話してみました」
「あぁ…!ありがとう」
ちょっとは喜んでもらえたようで、私も嬉しくなった。それから「月が綺麗に出てるよ」とかいう他愛のない話をした。最初の時みたいに弾むような会話はなかったものの、ゆっくりと落ち着いて話せた気がする。YMさんの声は空洞に反響するみたいに聞こえたので、あまり家具のないガランとした部屋に住んでいるのかなぁとか想像しながら。
 どうにも自分の中の時系列があやふやなんだけど、かのデートの後も私はYMさんに会いたいと思っていたんだろう。だから性懲りもなく電話をして、映画に誘ってみたりなんかして。でもやんわりと断られた。そっか…映画はダメか…。なぜ代替案を考えておかなかったんだ?私。他に打つ手がなければ即終了になってしまうことぐらい分かっていただろ?と自分への文句が頭を侵食しはじめると、もう相手の言っていることが耳に入らなくなる。いや聞こえてはいるんだけど、「今この人は私のことをつまらないやつと思っているんじゃないか」とか考えて、何も言えなくなる。前回の食事の場面で息が詰まりそうになった感覚も蘇ったりして。結局この日はどうやって電話を終えたのか覚えていない。

 2月9日から間を置かず、私はYMさんにショートメールを送った。
[映画は無理でも、食事とかどうですか?]
返答なし。
[今週のどこかで会えませんか? もし明日までに返信がなければ、今後一切メールや電話はしません。]
自分が送ったメールの内容を一言一句覚えてはいないんだけど、このような脅迫めいた文だったことは確かだ。ビビる。もし私自身がこのメールを受け取る側だったら、心臓の奥の方がひんやりとしてしまうだろう。見ている画面を閉じて携帯電話をしばらく遠ざけるだろう。決して確信犯的ではなく、相手が迷惑がるかもしれないと感じながらも、そうせずにはいられない性分なのだ。YMさんを困らせるつもりがなかったと言えば嘘になるけど、私には諦める覚悟があることを知らせたかった。なんかもう何もかもを即座に明らかにしてしまいたかった。
 当然返信はなかった。また私だけが突っ走ってしまった。初めから脈なんてなかったのに、そこに何かがある気がして闇雲に掘り進めて行ったけど、地崩れを起こして行き止まり。

 私はいつになったら他人との適切な距離を覚えるのだろうか。いつになったら大人として振る舞えるんだろうか。

 わずか1か月足らずの間に起こった出来事を思い返すと、自分の言動があまりにも幼稚で嫌になる。できればもう2度と思い出したくないと考えたりするんだけど、YMさんと初めて話した時、まるで卓球のラリーをしているようなリズムを感じたのを鮮明に覚えている。何の変哲もない言葉のやりとりが心地よくて、楽しくて、この人とは言葉の感覚が似ているのかもしれないと思った。まぁそれは私の思い違いだったのだけれど。それを恋と錯覚してしまった。第一印象を当てにしないことをモットーにしていたにもかかわらず、相手の第一印象に執着してしまっていた。できればその幻想とだけ付き合っていたかったなぁなんてムリな話だけど。何かの引っかかりを感じてしまったんだからしょうがないよな。なければ素通りできたのに。バカな自分を見なくて済んだのに。でも一瞬の魔法をありがとうと言いたい。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?