戯曲 こじらせプリン⑩最終回

まみ んーどうだろうねえー。

愛希 私、なんか、今なら世界を裏切れる気がする。この戯曲をおもしろくしたい!

まみ じゃあ愛希ちゃん、神様の前で『世界を裏切ったこと全く後悔してません』って胸張って言える?じゃないと神様許してくれないよ。

愛希 言える。きっと言えるよ。私はいま、この戯曲をおもしろくしたいの。そうしなかったら、きっと後悔する。私は今から世界を裏切るよ!

まみ これから愛と希望でいっぱいの、愛希ちゃんだけの日々が待ってるかもしれないよ。この戯曲のためにその日々を諦めていいの。ほんとにほんとに後悔しない?

愛希 うん。後悔しないよ。あはは、愛と希望かぁ。こんな自分には似合わない「愛希」なんて名前大嫌いだった。でも、この戯曲の中でまみちゃんが何度も「愛希ちゃん」って呼んでくれて嬉しかった。ありがとう。まみちゃんにも、この戯曲にも感謝してるの。

まみ そっか、うん、愛希ちゃんがやりたいことをやったらいいよ。今すごくいい笑顔してる。かわいい。

愛希 (照れながら)えーほんと?嬉しい。

まみ あ!そういえば、言うの忘れてた!なんかね、私と愛希ちゃんの人生って一秒も交わらなかったらしいよー神様が言ってた。

愛希 どういうこと?

まみ この世界で一秒も同じ時間を過ごさなかったってことだよー。どこかで一瞬すれ違ったことも、なーんにもなーんにもなかったってこと。

愛希 それなのに今こうして会えてるの不思議だね。でも私、まみちゃんに会えてよかったよー!

まみ 私も。世界を裏切ったあとだったけど愛希ちゃんに会えてよかった!

愛希 うん、ありがとう。じゃあね、バイバイまみちゃん!この戯曲がおもしろくなることを願って。

愛希、笑顔でまみに手を振りながら再びスーパーの方へ駆け出していく。(退場)一人残されたまみは一人で話し出す。

まみ あはは。ねえ愛希ちゃん、愛希ちゃんが死んでもこの戯曲はきっとおもしろくならないよ。愛希ちゃん知らないの?この世界に主人公が自殺する戯曲なんて山ほどあるんだよ。てゆーか戯曲のために死ぬなんて、いったいどれだけこじらせたら気が済むの?(笑)まあでも、愛希ちゃんがこの戯曲のために心から死にたいと願うなら別にいっかー!

まみ、少し笑ったあと、しばらく無言でいる。

まみ (空を見上げて)神様、あの子きっと世界を裏切る前に「最後の晩餐〜!」とか言って、ちゃんとプリンアラモード食べるよ。私が天国に行けるように。あの子優しいから。だから任務は果たしたってことでいいよねー?

返答はないが話し続けるまみ。

まみ あの子は自分に殺されたのでも、戯曲に殺されたのでもない。神様が殺したんだよ。自分が世界を裏切れないから、あの子に裏切らせたんでしょ。あはは、まあ別にいいけど。

まみ大きく伸びをする。

まみ 私たちに命を与えてくれてありがとう。こじらせながらもがんばって生きていってね。じゃないと私たち死んだ意味ないから!

まみ駆け出していく。

まみ (振り返って)心配しなくてもあの子はきっと神様の望みを叶えるよ。神様の前であのかわいい笑顔で『世界を裏切ったこと、後悔してません!』って言うと思う。だから天国に行かせてあげてね。では私はお先に天国に行かせてもらいます!バイバイ、ポンコツ神様!

まみ退場。暗転。

(完)

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