戯曲 こじらせプリン④

愛希 えっ・・・。

まみ 私はね、死にたいから死んだの!こんな世界うんざりだって思って、こんな世界裏切ってやるって思って、心から死にたいって思ったから死んだの!愛希ちゃんとは違うよ!

愛希 ・・・。

まみ冷静さを失っていく。

まみ 私の周りには誰もいなかった。両親に愛された記憶すらない。家族?友達?なにそれ。(自嘲的に)あはは、でも私顔はいいから男だけはたくさん寄ってきたけどね。まあみんな一晩の付き合いだったけど、暇つぶしにはちょうどよかったわ。誰もいないから、誰よりも好き勝手生きてやった。そのたびにまた1人になったけど。でも1人だけ、たった1人だけずっと私のそばにいてくれる人に会えた。初めて人を愛して、人に愛された。生きててよかったって初めて思った。でもその人はどこかへ行っちゃった。他に好きな人ができたからって言ってた。そのとき私は、ほんとにこの世界を憎いと思ったよ。たった一瞬だけでも私を愛してくれたその人を憎いだなんて思わなかった。ただただ世界が憎かった。私はいつまでこの世界に苦しめられなきゃいけないのって思った。悔しくて悔しくて、こんな世界裏切ってやるって決めた。みんながそれを逃げだと言うなら、それでもいいよ。でも私は逃げたんじゃない。どれだけこの世界に苦しめられても、私は最後まで自分のやりたいことだけをしたかった。私は死にたかった!この世界を裏切りたかった!

愛希は何も言い返せない。

愛希 ・・・。

まみ 何度でも言うけど、私は心から死ぬことを望んだから死んだの。愛希ちゃんとは違う。愛希ちゃんが自殺できない理由なんてね、小学生でもわかるよ。死にたくないからだよ!死にたくもないくせに、生きたいって誰よりも願ってるくせに死のうとしてるだけでしょ!

愛希は下を向いたまま黙っている。まみは少し落ち着きを取り戻す。

まみ いじめられて死んじゃった14歳の子だって、死にたいから死んだんだよ。死にたいって思った原因はいじめだったかもしれないけど、ただ死にたいっていう自分の望みを自分で果たした。それだけのことだよ。すごくなんかない。自分のやりたいことをやる、そんなの誰にだってできる。やりたいこと何もしないで、やりたくないことだけ無理にやろうとしてできなくて他人をうらやんで、それで勝手に自分の評価だけ下げて生きてる愛希ちゃんにすごいとか言われても何にも嬉しくないからね、私も14歳の子も。

愛希 ごめん。

まみ 別に愛希ちゃんに謝らせたかったわけじゃないよ。ただ私は自分の言いたいことを言っただけだよ。

愛希 うん・・・。

しばらくの沈黙。ふいにまみが口を開く。

まみ 愛希ちゃんってさ。

愛希 なに?

まみ 「死にたい」って携帯で検索したことある?愛希ちゃんのことだからしたことあると思うけど。(笑)

愛希 うん。何回もある。

まみ 「死にたい」って検索してるのに、死ぬ方法じゃなくて、「あなたの気持ちを話してください」とかいう厚生労働省のページが一番初めに出てくるの知ってる?

愛希 うん。知ってるよ。開いたことはないけど。

まみ 私、この世界のそういうところ大っ嫌いだった。命のホットラインとか心の窓口とか聞くとイライラして腹が立って仕方なかった。なんでこの世界って自殺をなくそうとそんなに必死になるの?自分で自分を殺してなにがいけないんだろうね。

愛希 私の通ってた大学ね、どの窓も15cmしか開かなかったの。誰も死ぬことができないように。なんだか毎日「死ぬことはいけないことだ。」って言われ続けてるみたいだった。

まみ 誰も世界を裏切れないようにしようって必死になって開かない窓作るなんて、この世界ほんとバカだよねぇ。開かない窓になんて何の意味もないのに。

愛希 この窓が開けばいいのになって思いながら、毎日じっと地面を見つめてた。どうせ私のことだから、その窓が開いたって死ねなかったと思うけど。

まみ 愛希ちゃんさっき、いじめで自殺する子に対してどう思うって私に聞いたでしょ。私は「いじめられて」かわいそうにと思うだけで、死んじゃったことに対してかわいそうになんて思ったことはないよ。死ぬことがいけないことだと思ったこともない。死にたいなら死ねばいいんだから。私はそう思ってる。

愛希 (ひとりごとのように)そうだよね。死にたいなら死ねばいいんだよね。

まみ、愛希の目を見る。

愛希 な、何?

まみ でも私には、愛希ちゃんのしたいことが世界を裏切ることだとは思えないけどなー。

(続く)

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