戯曲 こじらせプリン⑤

愛希、目に涙を浮かべる。

愛希 なんかね、私ね、死ねないって分かってるのにね、死にたいって思っちゃうの。なんで死にたいって思うのかもわからない。今も毎日ベランダからじっと地面を見つめて、いつもそれでおしまい。なんで私は死にたいはずなのに死ねないの?ベランダから飛び降りる勇気はどこに行けば、何をすればもらえるの?

まみ そんなに世界を裏切る勇気が欲しい?

愛希 (うなずく)

まみ 生きたいくせに?

愛希 私は生きたくなんかない。生きたくなんかないよ。死ぬ勇気さえ持てない自分なんかいらない。

まみ うそつき。

愛希 え?

まみ 愛希ちゃんほんとお芝居へたっぴだなあ〜〜〜。さっきも言ったけど、愛希ちゃんほど生きたいって願いまくってる人そういないからね?

愛希 そんなこと願ってなんかないよ。

まみ ほらまたうそついた。うそつくならもっと上手につかないと〜。愛希ちゃんに一番向いてない職業は女優さんだね。(笑)

愛希 私が何を言ってもうそだなんてまみちゃんひどいよ。

まみ あはは、ごめんごめん。気悪くさせたかったんじゃないの。やっぱり神様の言う通りだなあって。

愛希 神様の言う通り?

まみ 神様が私を見送ってくれるときにね、「愛希ちゃん信じられないくらいこじらせてるからがんばって!」って言ってたの。

愛希 神様ってお見送りなんかしてくれるの!?

まみ いや、そこ?(笑)

愛希 だって神様って一番エライ人でしょ?

まみ あはは、まあそうなんだけど、でも愛希ちゃんが思ってるような神様とはちょっと違うかもな〜。

愛希 お見送りしてくれる神様かぁ。神様って優しいんだね〜。でも、こじらせてるってどういう意味で言ったのかな。

まみ 私すぐわかったよ。あぁこの子こじらせてるなぁって。それで思わずさっきは怒ってしまったけど。(笑)

愛希 え?

まみ 生きたいなら生きていけばいいのに、死ぬことで自分が生きていることを確かめようとするとことか、ね。

愛希 (必死に首を横に振りながら)違うの。私は生きたいんじゃない。ただ死ぬ勇気が欲しいだけなの。

まみ 愛希ちゃん。世界を裏切れるひとをすごいと思ってうらやんだって、それは全然悪いことじゃない。でもだからって、どうしてそれができない自分をそんな風にこじらせて傷つけなきゃいけないの。

愛希 ・・・。わからない。私の中の何かがそうさせるの。

まみ 別に私は、本当に死にたいなら死んだらいいと思ってるから、世界を裏切ることを止める気はさらさらないけど、一つだけ教えといてあげる。自分で自分を殺しても、だーれも褒めてくれないからね。すごいなんて言ってくれないからね。それだけ覚えといたらいいんじゃない?あ!あと神様にはめちゃくちゃ怒られるよ〜覚悟しといたほうがいい。

(続く)

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