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【企画作品】ハナミチ

風がひとひらの花びらを運んできた。私は、髪に付いた桃色のそれを指でそっと摘む。見上げれば、溢れんばかりに咲き誇る桜。一方で、足元には儚く散った花びらたちの姿があった。散り積もったそれさえも、景色を彩る大切な一部であるかように感じてしまうのは、私が春を待ち望んでいたからなのかもしれなかった。

大きなキャリーケースを引っ提げて、私は駅の方へと足を進める。憧れていたウエディングプランナー。長年描いてきた夢を叶える瞬間が、刻一刻と近付いて来ていた。

私は、住み慣れた街の歩き慣れた道をゆっくりと進んでいく。これまで飽きるほど歩いた道だというのに、今日はどこか初めての場所に来たかのようにドキドキしていた。

徐に財布を取り出し、乗車券の存在を確認する。出発までまだ30分程ある。駅までは徒歩10分の道のりだというのに、どうやら張り切って早く家を出すぎたようだ。私はぶらぶらと、駅前に植えられた桜の下を歩く。

なんだか、じっとしていられなかった。

憧れの業界で働けるからといって、不安が全く無い訳ではない。初めての土地で、上手くやっていけるのだろうかという不安もあった。一度芽生えた不安の種は瞬く間に心の余裕を奪い、広がっていくような気がした。

しばらくすると、そんな不安をかき消すように、駅の方からアナウンスが鳴り響いた。

__まもなく列車が到着します。反対列車待ち合わせの為、しばらく停車します。

ガタンゴトン、という音が徐々に大きくなり、あっという間にホームに列車が到達する。出発までまだ時間はあったが、私はすぐに電車の方へと足を進めた。

なんといっても田舎の駅だ。それほど乗車を急がなくても席には十分に余裕がある。それでも私は、改札を抜けまっすぐに電車の方へ向かっていく。それから停車している電車の少し手前で、私はくるりと馴染みの駅を振り返った。

その瞬間、背中を押すかのように強く吹いた春風が、ピンク色の花びらを勢いよく宙で踊らせた。それはまるで私の門出を祝福する紙吹雪のようだった。春の陽気に後押しされて、私は改札に背を向けた。キャリーケースを少し持ち上げ、ゆっくりと電車の中に足を進める。そして、車両の中程まで歩いたところで、窓際の席に腰を下ろした。

ホームの両脇に植えられたこの一直線の桜並木が、私の花道だ。そんな事を考えながら私はふーっと息を吐くと、窓からひとり満開の桜を眺めた。

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お花見企画、今週もたくさんの方にご投稿いただきました。本当にありがとうございます。作品例として企画の説明記事に自身の作品を載せたものの、それ以降は投稿してくださる皆さんの記事を楽しんでばかりいたので、改めて企画作品を書いてみました。

『この一直線の桜並木が私の花道だ。』と自分で書いておきながら、"なんだかアニメキャラクターみたいな言葉になっちゃったな…!"なんて事を頭の中で考えていました。(そしてそれをそのまま採用しました。笑)

そろそろ桜が見納めとなった地方も増えてきているかもしれませんが、東北の方では、これからが桜の開花時期でしょうか。企画は引き続き4月30日(金)まで作品を募集しています。皆様もうしばらく、お付き合いくださいませ。

皆さんからの応援は、本の購入や企画の運営に充てさせてもらっています。いつも応援ありがとうございます!オススメの1冊があれば、ぜひ教えてください。