ショートショート「なまはげ」

ショートショート「なまはげ」


某○×TVで「なまはげ」が放送禁止用語になった。
なんでも、「なまはげ」と聞くと、心を痛める人がいるらしい……。

「なまはげ」とそうじゃない「はげ」は関係ないだろう! と、抗議の声もあがったのだが、とにかく連想するからダメなのだそうだ。
ここらへんの経緯は「片手落ち」が放送禁止用語になったみたいなみたいなもんだろう。
○×TVの決定に他のTV局(天下のMHKまで)も追随し、TVから「なまはげ」という言葉は駆逐された。
それはそれとして、困った事にTVで全く報道されなくなったせいで、行事としての「なまはげ」は地元秋田県でもだんだん盛り下がり、存続の危機を迎えていた。

さて、○×TVはふとした事がきっかけで、ネット民の怒りを買い、反対デモが局を取り囲む事態となった。
そのデモ隊の中にいっぷう変わった大男がいた。
身長2m以上、顔は真っ赤、目はつりあがりなぜか角やキバまであり、出刃包丁を振り回している。コスプレなのだろうか?
どうも、外人らしく何をしゃべっているかわからない。
「@! なまはげ”#$%&’()!! なまはげ~|+*><!!」
彼は涙ながらに必死に何事か抗議しているのだが、聞き取れるのは「なまはげ」だけだ。
デモ隊のメンバーからは好意的に受け止められていたが、そのオーバーアクションと声の大きさ、せっぱつまった様子から、良くも悪しくも悪目立ちをしていた。
それがまずかった。
彼はデモ隊の監視をしていた警官達の目にとまってしまったのである。
「君、届けの出ている列からはずれちゃいかんじゃないか……
 む、その出刃包丁は本物じゃないか! 
 銃刀法違反で逮捕する!!」
「警官横暴!!」
「その人はパフォーマンスをしているだけだ!」
「はなしてやれよ!」
デモ隊のメンバーの擁護も聞き入れられず、大男は逮捕されてしまった。
大男は警官にひきずられながらも、泣きながらむなしく連呼する。
「なまはげ~!なまはげ~!!」
……だが、だんだん声は遠くなり、大男はパトカーに乗せられて行ってしまった。


現在、いまだに「なまはげ」の放送禁止は解除されていない。



※この物語はフィクションであり、実在するいかなる団体、事実とも関係がありません。



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#ショートショート #小説





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