ブックレヴュー 「マスードの戦い」


「マスードの戦い」(河出文庫) 長倉洋海著

ソ連侵攻後、アフガニスタン開放のために戦ったアフガンの英雄 
『アフマド・シャー・マスード』のドキュメンタリー。

アフガニスタンはソ連に占領され、独立をかけて戦うもの達は山岳地帯に
逃れ、ゲリラとして戦わざるを得なかった。
結局、膨大な犠牲を出しながら、ゲリラ達は無敵のソ連軍を国から追い出
すことに成功するのだが、(アメリカのベトナム撤退と同じくらいの歴史
的勝利である)ゲリラ達を組織してソ連軍に立ち向かったのが、英雄マス
ードである。この本がかかれた頃は29歳のはずだが・・40台のような
落ち着きと顔にきざまれた無数のシワ、鋭い眼光。しかし、笑うと無邪気
な青年の顔である。

マスードのエピソードに戦車部隊を追い返す話が出てくる。戦車とゲリラ
では、話にもならないが、マスードは敵から奪った対戦車ミサイルを使い
(使用法がわからないので手にはいれたが放ってあったという)戦車を撃
破、ゲリラをなめきっていた戦車部隊は慌てふためいて撤退、結局一人で
戦車部隊に勝ってしまうのである。

とにかく、英雄と呼ばれるにふさわしいエピソード満載であるが、組織を
維持するための苦心(当時まだソ連軍と交戦中)、仲間や肉親を失うこと
への苦悩、その中でさらに自分を信じてくれる仲間への信頼に答えなくて
はならないプレッシャー・・人間としての側面もよく書かれている。

彼の組織作り一つをとっても、まるで臨時政府のような構成になっている。ただのゲリラではなく、国を取り返す志の高さが伺える。

本書に書かれているのはここまでだが、アフガンはソ連解放後、今度はタ
リバン勢力に支配されてしまった。マスード将軍は一旦、英雄として凱旋
したもののタリバンと対立し、山岳地帯にこもったが2001年自爆テロ
によって暗殺されてしまう。
(この事件を新聞で読んだときは、アフガニスタンの今後について暗澹た
る気持ちになった。)

逆にタリバンと結びついていたのがアルカイダである。彼らのメンバーに
は地獄の対ソ戦争の生き残りが多数いるのだ。一筋縄でいかないわけであ
る。

必死で生きるアフガン人にくらべ、日本の現状は……
未読の方はぜひお勧め。


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