思い出


=投げ銭方式にしてみました。
 もちろん全部読めます=


小学校のうち、親の転勤が多いので、自分は転校ばかりしていた。
だいたい2年に1遍、転校するのだが結局卒業まで4校通った。

学生時代、自分の地元でずっとすごしていた人には想像できないだろうが、転校ばかりしていると、せっかくできた友達ともすぐ別れてしまう。
もちろん、幼馴なじみなんていうものは逆に想像などできない。
(だから自分はマラソン等、体を動かすスポーツは人並みだが、球技がまるっきりできなかった。小学校低学年までキャッチボールをする相手がいなかったからである)

いずれ別れる事前提で他人と付き合う為、それが当たり前となって人間関係がどこか希薄で、相手はどうあれ自分は友人、知り合いとの別れを悲しいなどと思った事はなかった。

ひとつ、転校を繰り返して思ったことは『女はすぐ泣く』という事だった。
別に自分と親しいわけでもなく、ほとんど話した事もないクラスメートや近所に住む学年違いの女の子……等が自分が引っ越すとなると泣くのである。
つまり、何も自分と別れて悲しいわけではない。そういうシチュエーションに感じて泣くのである。子供心に『これは、うっとおしい……』と思ったものだ。

さて、あれは3校目の終わり頃、小学5年生の1学期だったと思う。

当時近畿地方の某県にいた自分は5月に、神奈川の横浜に引っ越すことに決まっていた。そんな時、4月に隣のクラスに女子の転校生がやってきた。
名前はY、だったと思う。(もう記憶の彼方だが)なんでも、横浜から来たという。なんと自分の次の引越し先ではないか?

Yの見かけは都会から来た為か大変垢抜けていた。少しおしゃれな服に髪の毛は黒ではなく茶色がかっている。自分が小学生当時は髪を染めている子などまずいない。Yの髪は自然にブラウンがかっていて脱色して痛んだ髪とは根本的に違う。肌の色も非常に白かったし、目も鳶色がかっていた。今、思えば多少外人の血が混じっていたのかもしれない。また、笑うと頬に大きな笑くぼができた。今から考えれば結構な美少女であったかもしれない。が、当時の自分はそんなものに全く興味がなかった。
とにかくYの第一印象は、
『都会の子っていうのは洗練されている』
だった。

さて、小学校高学年の女子というのは男子よりも背が高い上にやけに高圧的である。小学生当時の自分はなんでこいつらこんな偉そうなんだろう? と常々不思議だったものである。

そこのところYは自分と大体同じ背の高さであり、会話でも聞くべきところは聞き役に徹し、話し方もおだやかで他の女子とは一線を画していた。要するに話しやすかったのである。

そういったわけでYに横浜情報を聞きたいと申し入れると、笑顔で応じてくれ(と、いっても結局とりとめのない話になってしまうのだが)休み時間やたまに廊下ですれ違う時など、短い会話をするようになった。久々に自分以外になまりのない言葉を話す相手、というのはなかなか新鮮だった。
(自分が小学校入学前~2校目までに住んでいた場所は愛知、静岡だった。関東圏に生まれ育った人にはわからないだろうが、地方では標準語を話すだけで存在が浮いてしまうのである。ヘタをするといじめの対象になる為、自分もイントネーションはともかく、普段、語尾などは地元仕様に合わせていた。)

このようにして自分は少し、Yと言葉を交わすようになったのだが、ここで断っておくが、Yに対して「恋愛感情」などというものはなかった、という事だ。

女子はなんでもかんでも物語に恋愛をからめようとするが(逆に男子はバトルをいれようとする)、小学4~5年生の男子にとって同級生の女子なんぞ、ただうるさくジャマな存在であって、用がなければ近づきたくないものだった。
だいたい、万一、話し込もうものならクラスで「女のようなやつ」の烙印を押され、仲間はずれにされる事請け合いである。
だが、この場合は少々事情が違ったことも事実だ。自分はもういなくなる事確定の特別な存在だったし、自分が横浜の事を知りたがっている事も皆が知っていたからだ。

そんなこんなで、ついに自分の引越し前日がやってきた。6時間目の授業終了後、帰りの会で皆に挨拶をし、別クラスであったYにもたまたま帰りの途中廊下で会って別れを告げたのを覚えている。と、言ってもいつものごとく
「明日引越しなんだ。じゃあね。」
くらいで済ませたように思う。
ただ、引っ越したら手紙を送れるように住所を聞いておいた。これは当時、自分の中ではマイブームで、引越し先から一回だけ相手に手紙を送り返事をもらうのである。引越し先で元の学校の友人から手紙が来るというのは、自分としては過去からの手紙のようでおもしろかったのだと思う。だから別にそれほど親しくない相手にも頼んだりしていた。

今回も引越し先から3~4通手紙を出して、その中にはYも入っていた。
内容は自分の近況と手紙を書くのはこれが最後だが、(別に文通がしたいわけではない。それは面倒でいやなのである)そちらの様子を教えて下さいといった内容だ。皆、律儀に返事をくれてYからも返信があった。もちろん内容はYの近況で、実は手紙の内容そのものには全く興味がない自分は早々に手紙をどこかになくしてしまったと思う。

そろそろ話を閉めようと思う。

横浜の印象だが……、
都会だし、人々もこぎれいで確かに洗練されていた。だが、クラスの女子があいかわらず野蛮でえらそうでうるさくてジャマなのは、地方とかわりなかった。洗練された女の子などどこにもいなかったのである。

Yだけが特別だったのだ。自分はそれを、ずいぶん後になって気づいたのだ。



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#短編 #恥ずかしい話

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