教員のプール当番

夏休み、朝。
循環器のスイッチ入れて、濾過装置の薬品確認(追加)して、消毒液量の確認(追加)して、水温・気温と塩素濃度計って、記録し、更衣室のドアと窓を開放します。

11時30分に再度、水温・気温と塩素濃度測って、基準値を満たしていれば、その日のプール実施。
実施できない場合は、校庭に赤旗立てて、メールで全児童宅に中止の連絡を入れます。
実施できる場合は、プールサイドの安全確認、休憩用ベンチを倉庫から出して設置します。
12時30分頃から当番の親と児童達が来ますので、当番の親がプール入り口でプールカードを確認して、更衣室へ進ませます。
教員はプールサイドに仁王立ちになり(これが私のこだわり)、更衣室で着替えた児童がプールサイドに来るのを見届けます。
というより、準備体操以前にプールへ入らないようにという安全のための見張りです。
仁王立ちになってかっこつけますが、児童は「ねぇねぇ○○先生。昨日海行ってきたよ!」「○○先生、太った?」「○○先生、宿題全然やってないんだけど、大丈夫だと思います?」と絡んで来て暑苦しいし、ウザいし、何より炎天下なので、既に意識が薄れて初めています。
しかし、この時間は、全然嫌いではありません。

児童の係(高学年)の合図で準備体操して、洗体シャワーを出体を洗わせ、プールに入らせ、後はひたすら炎天下で監視のみ。
パラソルは2つありますが、親の係も2名なので、教員の分はありません。
たまにいたずら好きな児童が水をかけてきますので、「こら〜〜〜〜〜っ!!」と拳を振り上げ、頭から湯気を出し、昭和の親父風味を醸し出すと、非常に児童に受けるので、児童達は大笑いしながらもっと水をかけてくれます。
児童がかけてくれる水で、意識が離脱するのを防ぐ、これがプール当番の極意です。
といいつつ、実際のところは、常に水面を監視し、人数を数え続けます。
水面反射で場所によっては水中が見えませんし、かといって監視場所はあまり変えられません。
親の当番2名と職員のプール当番、計3名で三角のフォーメーションで監視しますから、あまり動けないのです。
当番の親は、しっかりやってくれます。
スマホしか見ていないのようなことはなく、水面を監視してくれる親ばかりです(大感謝です)。

30分に一度、休憩を挟みます。
当番の親が鳴らしてくれる鐘で、児童は一斉にプールから上がります。
休憩テントの下に入り、持参した水筒で水分を補給します。
当番職員はここで水温/気温、塩素濃度を測り、記録します。
5分しか休憩がないので、当番職員のトイレはダッシュです。
水分補給もします。
鐘が鳴っても水から上がりたくない児童もいて、ゆっくりゆっくりとプールサイドへ泳いで、1秒でも多く水の中にいるように「工夫」するのです。
「最後の子が水から上がってから、5分休憩ね!」と全員に宣言してやると、「早く上がってこい!!」「休憩時間、伸びるだろう!」とブーイングの嵐になり、ゆっくり作戦の子がしょんぼり・・・以降、鐘が鳴ると、全員素早く水から上がるようになります。

プール解放時間は2時間ですが、1時間を過ぎると、半数以上の子が帰り始めます。
「疲れた」「飽きた」「水に入っても涼しくない(水温と気温の差が小さい)」「アイス食べたい」「腹減った」などなど。
帰る理由を訊くと、上のような回答が返ってきます。
理由を答える義務は児童にはないのですが、大抵素直に答えてくれます。
最も秀逸だった回答が6年生の男子児童。
体が大きく、野球バリバリのスポーツマン、厳つい顔で声変わりしていて、でもみんなに好かれている「いいやつ」。
「いいやつ」は途中で帰る理由を「母ちゃんが恋しくなりました!」と大声で答えました。
それを聞いた周りにいた児童たちは大ウケ。
私も大爆笑。
「いいやつ」本人も満足顔。
普通、「こんな回答、小さい子どもと思われて恥ずかしい」と考えますが、「いいやつ」は自分に自信があり正直者、恥ずかしくない!?というか、場を和ませる発言の天才。
この回答を聞いた低学年の数名、「私もお母さんに会いたいので帰ります」と帰ってしまいました。
しばらくの間、途中でプールから帰る児童の大半の理由が、これになりました。
後日、当番の親からこの話が「いいやつ」のお母さんに伝わったそうで、お母さん泣いて喜んでいたそうです(「いいやつ」から聞きました)。

休憩含めて35分で3セクション回ると、残りは15分。
最終セクションの15分まで残っている児童は、いつもわずか数名。
仰向けバタ足でひたすらプールの中をさまよっている児童、ビート板を並べた即席マットの上で寝そべって空を見つめる児童、プールの中央で立ったまま激論を戦わせている数名など、「ヘンな子」か「プールでなくてもいいでしょう」と突っ込みたくなる子しかいません。
しかし、職員プール当番も当番の親も、監視任務を怠りません。
炎天下の2時間が過ぎようとしているこの段階で、もはや思考力は失われ、人生の意義も見失いかけた、謂わばスタチューの精神になっています。
最後の鐘が鳴り、プール終了。
確認、清掃、ベンチ片付け、循環器のスイッチ切り等を、当番職員一人で終え(30分程度)、プールに施錠して、職員室へ。
日直職員が入れてくれるキンキンに冷えた麦茶で、スタチューから人間に戻り、残り約1時間の勤務時間を過ごします(ここで会議や研修入れてくる鬼畜担当もいますw)。

日焼け止めを塗るのは当然ですが、だからこそ、児童が帰った後のプールに入ることができなくなります。
プール当番は、夏休み中に1〜2回程度なので、別に辛いというわけでもなく、逆に、学年を超えた児童達との交流が楽しみです。
夏休みという開放感と、プールで楽しく友達と遊ぶだけというお気楽感から、いろんな児童が当番職員に「絡んで」くれます。
水をかけてくれたり、足下に集まってきて「ねぇねぇ先生、○○って知ってる?」と井戸端会議に誘ってくれたりは平常運転です。
バケツ持ってきて水道水(低温)を入れ、こっそり近寄ってきてぶちまけてくる児童もいます。
こっそりといっても、こちらの視界には入っているので、「来るな?」と心の準備はできているんですが。
「こら〜〜〜〜〜っ!!」と拳を振り上げ、頭から湯気を出し、昭和の親父風味を醸し出すのはお約束ですが、これは当番職員にとってはご褒美で、物体(スタチュー)から一気に人間へ戻してくれます。
気が利く児童(大抵高学年)だと、こっそりと「先生、そろそろアレ(バケツ冷水)、行きましょうか?」と訊いてくれる子もいて、こちらもこっそりと「頼む」と答えます。
しかし、私の当番ではない日に、50代の女性職員にこれやった児童がいました。
「気を利かした」つもりのその児童、こっぴどく叱られ、「○○先生だと喜ぶので」と弁明したようです。
当然私は校長に呼ばれこの件を問い詰められ、「まぁ、あまり無茶しないでください。」と窘められました。
夏休み明けに、この児童を呼び出して、「ごめんな。先生のせいで叱られたんでしょう?ごめんね。」と謝りました。
この子も、「同じ行動でも、相手によって反応がちがう」ことを学んでくれたことでしょう。

ちなみに、私の勤務した小学校では、全て「当番職員が責任者(準備、監視、片付けフルコース)、親の当番は補助(監視のみ)」でしたが、自分の子どもが通って小学校は「親の当番が責任者(準備、監視、片付けフルコース)、学校職員は補助(監視のみ)」でした。
だから、自分が小学校勤務の時と、自分の子が小学校にいた期間は、全て「私が責任者の当番(準備、監視、片付けフルコース)」しか経験していません。
私の息子が通った小学校に「勤務」し、自分の子どもが通った学校が私の勤務した学校という幸運な先生は、その期間内は「補助としてのプール当番(監視のみ)」しか経験しないわけで、不公平感は半端ないです。

とはいえ、連続2年目の「夏休みプール開放不実施」は、少々寂しいです。
来年はコロナ、終息していてほしいです。

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