高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』を読んで
本書を読んで真っ先に思ったのは、
「これから一時、おいしいご飯が食べられなさそうだ」
ということだった。食べるとは…おいしいとは…当たり前に捉えていたことが、なんだか少し気持ち悪いものに感じる。
また、自分は高校時代よくお菓子を作ってクラスに配っていたので、二谷や押尾みたいに嫌う人もいたかもしれないと思った。お菓子を配るということに今後少し抵抗感を抱きそうである。
それこそ、読了後の後味が、「おいしいご飯が食べられますように」と祈りたくなるような、苦々しい作品だった。
本書は場面ごとに語り手が異なる書風である。(二谷と押尾かな)
おそらく一応の主人公は、二谷になると思う。
自分中心で働く女性社員・芦川
芦川の彼氏で食に無関心な同僚・二谷
二谷のことが好きで芦川が嫌いな同僚・押尾
彼らの上司・藤、同じ職場のパートさん等々…
読者によって自分はどの立場に近いか、共感できるかが変わる作品ではないかと思った。(私は押尾寄りかな)
また、ラスト場面の結末…一般的にはハッピーなことだと思われやすいものが、吐き気のするようなバッドエンドにも感じられる…とても心がぞわぞわする結末だった。
私が本書で好きな描写は、二谷が芦川のお菓子を美味しくなさそうに食べる描写もだが、ビールが喉を通る描写がとても好きだ。
ビールで喉を洗う…
こんな書き方があったと思う。それがとても好きで頭に焼き付いている。ビールの飲み方で心情をうまく表現しているのがとてもインタレスティングの意味で面白かった。
ビールを飲む描写は、二谷が芦川のお菓子を食べるシーンには負けるとも、どれも結構文字を割いて書かれていていることにも注目しておきたい。
また、高瀬さんの、受賞後の記者会見の中で、個人的にとても好きな発言がある。
報道陣から、「今夜はおいしいご飯が食べられそうですか?」と尋ねられると、高瀬さんは「食べられなさそうです」と何か含んだ笑みを浮かべて発言をした。とても小説家らしいコメントだなと思った。
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