百貨店アパレルがEC売上を伸ばすのが難しい理由
こちらのnoteではファッション業界の最新ニュースを1週間に5本程度解説し、その先に起こり得る事や豆知識を盛り込んでご提供いたします。
先週のピックアップニュースは下記の通りです。
・百貨店アパレルがEC売上を伸ばすのが難しい理由
・三陽商会のEC強化について思う事
・CVRを上げるには情報量が大事!
・「選んでもらう」に付加価値が無い!?
・「ライブコマースをやれば商品が売れる!」なんていう事はない
百貨店アパレルがEC売上を伸ばすのが難しい理由
オンワードHDのEC売上高が203億円を達成 SC向けの新ブランドを今秋スタート
4月9日の決算会見によると、オンワードホールディングス(以下、オンワードHD)の2018年2月期のEC売上高は、前期比37%増の203億円を達成した。特に自社ECの「オンワード・クローゼット(ONWARD CROSSET)」が好調で、自社EC比率はグループ全体で75%、オンワード樫山で85%をマーク。他社ECモールに依存しない独自のEC強化策が奏功した。来期は300億円を目指す。
オンワードのEC売上が203億円、そのうち自社ECの売上が75%という事で150億円以上を占めています。直近の決算によるとオンワードはグループ連結で年商2400億円。EC化率は8.5%なのでもう少し伸ばせそうではあります。しかし、オンワードの主要販路が百貨店という事を考えるとこの数字はかなりの躍進と言ってもいいのではないでしょうか。
○百貨店は店頭からウェブに送客しづらい
百貨店とブランド側の契約内容で一番多いのが「消化仕入れ」。これは店頭で売れた商品の20〜30%が百貨店側に支払われるシステムなので、百貨店側の儲けを増やそうと思うと店頭売上を伸ばさないといけません。一方、ブランド側はECで売った方が手数料を取られない訳ですから、なるべくECで売った方が会社に残る利益が大きい。ですが、店頭で販売員さんがECに送客しようものなら百貨店側からNGが出ますし、何なら店頭販売員も自分たちの評価を上げる為にもwebには送客したくない。それぞれの思惑が違う方向に行ってしまう事が多いので、百貨店が主要販路のアパレルは中々ここの調整が難しいのです。
もう2年以上前になりますが、高島屋傘下のECモールである「セレクトスクエア」に送客するのは積極的にやっていたようです。しかし、これも百貨店にメリットがあるからであり、そういった特殊な事情が無い限りはwebに送客は簡単ではありません。
○顧客名簿も自社で管理できない
百貨店とファッションビル・SCの大きな違いの一つに「顧客管理」があります。百貨店はブランド側がコストをかけて出店しているものの、名目上は百貨店のショップなのです。ですから顧客名簿の管理は店頭で販売員がやるものの、外部に持ち出す事はもちろん禁止です。顧客名簿があれば、そのデータを使ってECのお知らせをして、認知をあげたいところなんですがそういった事も現状では非常に難しい。DMを発送する場合も百貨店側の校正が入ってしまいます。1点メリットがあるとしたら百貨店内の顧客名簿は共有できますから、ブランドを横断して百貨店の店頭イベントのお便りを出す事は可能です。同じフロアの競合店の顧客上位50名にDMを発送!なんていう事もできたりします。
ECは基本、店頭顧客にその存在を知ってもらい購入するところから始まりますが、それがやりにくいのが百貨店アパレルなのです。オンワードは過去から長く運営されているブランドを数多く持っていますから、ブランド認知は既にされているでしょう。しかしその認知を利用し、ECに送客するにはかなりの手間暇と広告費が必要だったのではないでしょうか。ワールド、イトキン、TSIなど不振ばかりの百貨店アパレルですが、このEC売上の伸びを見るとオンワードの未来はちょっとだけ明るい兆しが見えてきそうです。
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